KKEの現場から

RemoteLOCKを活用した、「地域に根付く」公共施設管理のスマート化

― 佐賀県有田町の官民連携から見る、自治体DXの進め方とは? ―

佐賀県有田町 松尾 佳昭 町長
構造計画研究所 すまいIoT部 、鄭 愚耕(左)、岡田 佳也(右)

  

昨今、自治体においてもDX(デジタルトランスフォーメーション)が強く求められている。佐賀県有田町では、公共施設管理のスマート化に向けて、構造計画研究所が提供するアクセス管理ソリューション「RemoteLOCK」および「まちかぎリモート」を導入。施設の利用者と管理者双方の悩みを解決する「目に見える」DXを迅速に実現した。有田町の事例をもとに、効果的な官民連携の考え方、そして自治体DXのあるべき姿をひも解く。


文化と自然、豊かな観光資源を活かした街づくり

日本のあらゆる現場で人手不足が大きな課題となっている昨今、自治体もその例外ではない。
デジタル庁は、2020年12月に、目指すべきデジタル社会のビジョンとして「誰一人取り残されない、人にやさしいデジタル化」を示し、住民に身近な行政を担う自治体がDXを進める意義を強調している。デジタル技術を活用した省力化やサービスの向上は、今や全国の自治体共通の課題である。

ここ佐賀県西松浦郡有田町も、DXに向けて取り組む自治体の一つだ。人口は約19,000人、佐賀県西部の自然豊かな地に位置する。古くは農業、江戸時代以降は日本初の磁器である有田焼を中心とした窯業文化が育まれてきた。
この地で目指す街づくりは、「伝統的な観光資源を活用しながらも、さまざまな技術を取り入れスマートタウンとして革新していくこと」だと、有田町 松尾 佳昭町長は語る。

「現在の有田町は、有田焼で有名な有田町と農畜産業が盛んな西有田町が2006年に合併してできた町です。誰もが知る伝統文化と豊かな自然からなる観光資源を軸に、『挑戦』の姿勢で街全体のデジタル化を推進しています。見据えるところは、デジタル技術を活用しつつも、人のあたたかさを主役にした未来型の街づくりです」

有田町は2022年、その第一歩として、構造計画研究所が扱うアクセス管理ソリューション「RemoteLOCK」の活用を始めた。きっかけになったのは、公共施設の利用者や町職員の声だという。

「自治体のDXが求められる中で『そもそもDXとは何か』を考えたときに、省人化が一つのポイントになると思いました。有田は教育機関も多く、生涯学習が盛んな街です。住民の方々には町の体育館などの公共施設をご利用いただいていますが、その中で鍵の受け渡しのために窓口へ赴く煩雑さや、鍵を紛失するリスクが課題としてありました」

新型コロナウイルスの流行により、ウイルスに感染しない、させないための振る舞いとして「非対面」「非接触」が推奨されていたことも一つの契機となった。貸館業務に対応する町職員の側からも、鍵管理の苦労や繁忙期の窓口・電話対応などを憂う声は根強くあったという。

「今後自治体として人口の減少は避けられない。これは有田のみならず全国の自治体に共通する課題だと思います。施設の鍵管理をスマート化できれば、人手の削減だけでなく利便性向上にもつながり、職員と住民双方の困りごとを解決できる。これほど分かりやすいDXはないと思いました」

実証実験でのRemoteLOCK導入と住民の声

2022年4月、まずは町内の3か所の施設で、RemoteLOCKおよび公共施設向けの予約システム「まちかぎリモート」を導入した実証実験を開始した。

「いきなり全施設で本格運用となると、予算面でもハードルが高く住民の方々の理解も得られにくい。まずはスモールスタートで実証実験という形から始めてみようと。ただ、課題が明確だったのでうまくいく確信はありました」(松尾町長)

RemoteLOCKは暗証番号式スマートロックだ。利用者は個別に発行される暗証番号で解錠でき、管理者はいつ、だれが入室したかをクラウド上で一元管理できる。さらに「まちかぎリモート」と併用することで、施設の予約・暗証番号の発行までワンストップで提供し、遠隔からの公共施設管理を実現できる。


▲有田町体育センターに設置されたRemoteLOCK

RemoteLOCKの西日本市場への展開を担う、構造計画研究所 鄭 愚耕(チョン ウギョン)は、自治体におけるメリットを以下のように紹介する。

「省人化やサービス向上、セキュリティ強化などを目的に、体育館や集会所、貸しスペースなど多くの場面でご利用いただいています。番号による解錠なので、子どもから高齢者まで直感的に操作しやすい。さらに災害時には、暗証番号を周知することで迅速な避難所開設にもつなげられます」

有田町では設置後約半年で、施設利用者を対象にしたアンケートを実施。「格段に予約がしやすくなった」「鍵を借りて返す手間と時間を省けてよい」など、8割近くの利用者から好意的な声が寄せられた。
挙がった意見は改善点として反映し、2022年10月から本格運用を開始した。現在は小中学校の体育館を主とする9か所の公共施設にRemoteLOCKが設置され、さらにグラウンドなどを含む体育施設 計18か所の予約をまちかぎリモートで管理。これまでの利用団体数はすでに100を超える。(2024年2月時点)

人を中心に据えた、地域に根付くDX

驚くべきは、導入後高い頻度で住民が施設を利用しているのにもかかわらず、構造計画研究所のRemoteLOCKサポートチームにほとんど問い合わせが来ないことだ。これは、高いITリテラシーのもと運用がスムーズに実現されていることを意味する。
松尾町長は理由をこう推測する。

「まずは町の担当職員が仕組みやメリットをよく理解してくれたことに尽きると思います。導入の際には、利用者から質問が来た際の想定問答集なども作成しました。現在、問い合わせはほとんど担当職員で対応できている状態です。
また、新しいことが好きな有田町民の気質もあるかもしれませんね。有田焼は創業400年を超えます。伝統が受け継がれてきたのは、古きを大切にしながらも、常に新しい技術を取り入れ変革を重んじてきたからこそ。有田にはそうした気概が脈々とあります」

子どもから高齢者までスマホを使いこなす現代。加えて有田町ではご近所同士でのコミュニケーションも多い。「一度サービスを使い皆さんの中で自分事として捉えられれば、すぐに慣れてもらえると思った」と松尾町長は振り返る。

冒頭で紹介した通り、今回のRemoteLOCK導入は「観光DX」という大きなビジョンに向けた序章にすぎない。今後は公共施設のみならず、宿泊施設等での活用も見据える。

「有田には伝統的な町家や古民家が多く残っています。イタリアの『アルベルゴ・ディフーゾ』*という構想になぞらえ、今後はそれらを活用した宿泊・飲食事業の展開も考えています。民泊などでもチェックイン対応や鍵の受け渡しは大きな負担ですから、RemoteLOCK活用の余地は大いにあるでしょう。一方で、人と人の接触をゼロにしたくはありません。デジタルとうまく付き合いながらも、主役はあくまで人。人情やあたたかさが失われない活用法を模索したいと思っています」

*街の空き家を宿泊施設やレストランに見立て、街一帯で宿泊経営を行う「分散型宿泊施設」の考え方。地域の活性化や空き家問題の解決が期待できる。

日本の自治体から鍵管理の悩みをなくす

有田町でのRemoteLOCK導入は、検討開始から本格運用まで1年半ほど。非常にスピーディーに進んだと鄭は語る。

 「松尾町長のDXに対する大きなビジョンと、施設利用者や職員の明確な課題感。それらがマッチしたことが、今回のスムーズな運用につながったと思います。気軽に意見交換ができるよきパートナーとして、今後も有田町の未来を一緒に考えていきたい」

「官民連携」こそが自治体DXのために不可欠な要素だと、松尾町長も強調する。町長室にいても世間のことは分からない。自身もかつては民間企業で働いていた経験から、外に出てさまざまな企業の知恵を借りてこそDXは前に進むという考え方だ。

2024年3月現在、RemoteLOCKを活用する自治体は、全国の1718自治体のうち90にまで拡大している。RemoteLOCKチームで自治体向けビジネスを背負う構造計画研究所 岡田 佳也によると、目指すところは「公共施設運営における鍵管理の悩みや困りごとを日本からなくすこと」だという。

「鍵の受け渡しで施設の管理者と利用者の双方が不便さを感じている自治体は、有田町に限らず多く存在しています。その課題を解決できる『スマートロックの導入』は大規模システムの導入ほどコストがかからない上、住民の方が最も身近に感じるDXの一つであると自負しています」

加えて昨今は、平時のみでなく災害発生時など非常時でのスマートロック活用も注目されている。

「避難所開設時の鍵問題も解決することができるツールとして、日本各地からの問い合わせが増えています。有田町のように、『鍵に悩まない』先進的な自治体を1つでも多く増やし、ゆくゆくはスマートロックが公共施設で当たり前に使われるような世の中を作り上げていきたいと考えています。現在、少しでも鍵管理に不便さを感じている自治体様には、ぜひお気軽にご相談いただければと思います」(岡田)

 


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■お問い合わせ先
RemoteLOCK 自治体チーム
remotelock-lgsales@kke.co.jp
050-1807-1888(平日 9:00-17:00)

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