KKEの現場から

通信の最先端を知る強みを活かして、 5G時代に新しい価値の創出を支援

電波技術部 電波工学室
室長 江森 洋都

新たな通信網の運用に向け、研究開発を行う

通信に関する研究開発業務は、一般社会にサービスが提供される前に関わることがほとんどです。私が入社した2006年当時、世の中は携帯電話の第3世代が主流でしたが、新しい無線通信の規格であるWiMAXのネットワークのシミュレータ開発や、当社で扱っているネットワークシミュレータ「QualNet(米SCALABLE社)」にLTEを扱える機能を追加・開発することを行っていました。
「QualNet」とは仮想空間内に配置した通信端末(ノートPC、スマートフォンなど)が設定した無線通信技術に対してどのように振る舞うか、実空間と同じ通信状況で解析することができるソフトウェアです。このソフトは様々なカスタマイズが可能で、プロトコルをオリジナルで作成したり、改良したりすることができるため、3GPP(3rd Generation Partnership Project)で策定されたLTEの国際標準仕様に合わせて同じような振る舞いをするように開発していました。

ネットワークシミュレーションソフト「QualNet」

日々進歩する通信業界

通信分野は私が入社してから15年の間で急速に変化しています。
近年、既存の周波数はすでに免許保有者限定の利用となっているため、周波数資源が逼迫し、これまで使っていなかった周波数も利用する動きになっています。
そこで他の周波数の利用を試みますが、「使える高い周波数は直進性があり短い距離しか飛ばない」といった課題が出てきます。私たちはこのような課題に対し、シミュレータを改良し、お客さまの納得がいく評価を提供し、解決への支援を行っています。
さらに世界的にも、既存の同じ周波数であっても場所や時間によっては共有し、効率よく使おうという動きがあります。しかし、実際に共有できるのか調査する際、全てを現地に赴いて行うには限界があります。そこで当社のシミュレータを利用することで事前評価を行うこともあります。

理論とシミュレーションを連携させ、提案することが当社の強み

お客様がシミュレータを使う場面は、大きく二つあります。一つは製品やサービス等を世に出す前にシミュレータを使って評価すること。そしてもう一つが、実際の製品やサービスで問題が起きた際の状況を模擬してシミュレータを使い再現するというものです。いずれの場面でも、どこまでの情報を反映し、また評価すればそのシミュレーションが信頼できるものと言えるのか、この判断力には当社には一日の長があります。
 シミュレータは一言で言えば手段でしかありません。電波伝搬・通信の双方の理論を理解した上でシミュレーションを行うことで、より精度の高い結果を得られることが可能となります。理論と組み合わせ、お客様が求める課題解決のためにどんな評価が必要になるのか、その評価のためにどのようなシミュレーションが必要になるのか。その辺りを切り分けてご提案できることが、当社の強みでもあります。
 また、電気通信における国際スタンダードを策定する機関ITU(International Telegraph Union)に日本代表団の一員として参加していることも強みと言えるでしょう。機関の部門の一つであるITU-R(無線通信部門)において電波伝搬の次のスタンダードを決める勧告文書、つまり電波利用の教科書を各国の代表と策定しているので、いち早く動きをキャッチできるわけです。

様々な環境下で電波伝搬シミュレーションを行うことが可能

ローカル5G」をはじめとする新たな動き

現在は強みや知見を活かし、研究者に近い業務も担っています。例えば、シミュレータを使って、高速通信ができるか、次世代通信で多端末接続ができるか、台数が複数あった時に問題は発生しないか、遅延は少ないか、などの研究を行っています。間もなくBeyond5Gや6Gの国際標準が策定されるので、そちらの研究に移行しつつあります。
また、ローカル5Gの業務にも取り組んでいます。通信事業者以外の企業や自治体等が構築・運用する、自営の5Gネットワークを「ローカル5G」と呼んでいます。導入時に利用地域で無線局免許を取得することが義務付けられており、免許申請時に電波の飛び方を解析し、図示するカバーエリア図を提出する必要があります。そのカバーエリア図を作成するツールKCAMP(キャンプ)を開発し、販売しています。IoT化や計測技術のデジタル化など社会のテクノロジーが進行している現在、ローカル5Gの普及に貢献できると考えています。

免許申請用エリア描画ツール「KCAMP」

通信速度の追求だけでなく新たな役割を担う無線通信

 シミュレーションは全ての事象を突き詰めていけば、全事象を模擬することも可能ですが、現実的ではありません。実現可能な部分で結果を出すには、模擬の取捨が必須です。これはお客様には判断がつかないところであり、積極的に提案し、シミュレーションでどのように問題解決をするのかを判断、助言していくのがシミュレータのプロの役割だと私は特に意識しています。
 電波、通信分野は速度だけを追い求めるのではなく、5Gの超低遅延の特性を使った遠隔医療、自動運転、重機の遠隔操作など、これまでと違った分野で、新たな技術が求められています。技術の進化による社会や暮らしへの影響は人がどのように技術を利用するのかだと考えています。今後は当社の様々な知見を活かし、人命救助やエンターテイメントなどの分野で電波・通信技術を活用し、人を笑顔にしてみたいですね。

シェアする

その他の記事