KKEの現場から

海外パートナーとともに「デジタルツイン」の実現を目指して

製造企画マーケティング2部 部長(※肩書は当時)
髙根 健一

平均寿命が延びた構造物の世界で必要とされるものとは

日本が抱える社会課題の一つに少子・高齢化が掲げられて久しいですが、ヒトの少子・高齢化と共に急速に進んでいるのが、当社が創業以来携わってきた構築物の世界です。
当社が創業以来追い続けてきた災害に強い構築物の構造設計や、建築材料や施工技術の進歩などにより、構築物の平均寿命は従来より延ばすことができています。ただし、平均寿命が延びるにつれて必要になってくるのが「維持管理」の業務です。
1つの構築物の設計・施工・維持管理は、2次元の図面を介して、施主や行政、設計者、施工業者、建材メーカー等の高度かつ複雑で膨大なすり合わせ作業のもとに成り立っています。そうしたさまざまな関係者が2次元の図面からそれぞれに3次元の構築物を思い描きすり合わせ作業を行うために、辻褄が合わないところが出て、それがQCD(Quality、Cost、Delivery)の低下につながっているのが現状です。

建設業の生産性が他の業種の生産性に比べて低いと言われる大きな要因の1つがここにあると考えています。さらに維持管理についても、残存している2次元の図面に度重なる設計変更や改修工事が反映されておらず、現況と異なっている例も多く見られます。

圧倒的な「見える化」ですり合わせ作業を効率化

建築物の設計から維持管理にわたるすり合わせ作業の効率化において、近年特に注目を浴びているのが「デジタルツイン」の概念です。現実空間の情報をサイバー空間上に再現することで、さまざまなシミュレーションを行うことが可能です。
建設業界ではBIM(Building Information Modeling)と呼び、3次元の空間データに属性データを追加して物理世界をサイバー上に構築し、「見える化」をしながら様々なシミュレーションを行うことで、すり合わせ作業を効率化しようと試みています。
3次元の空間データには主に「ソリッドモデル」と「パノラマ画像+点群データ」の2つがあります。私たちが主に取り組んでいるのは後者の「パノラマ画像+点群データ」に属性情報を付したBIMモデルによるサイバー上での物理空間の構築です。構築物を高速かつ高品質に3次元計測(パノラマ画像と点群データを取得)することで、だれもが明確かつ手軽にWeb上に再現でき、様々なシミュレーションやすり合わせ作業が効率的に行える未来社会の構築を、本技術の開発元で事業提携先である、ドイツのスタートアップ企業NavVis社とともに目指しています。

具体的には、ウェアラブル型のデバイスである「NavVis VLX」を使って、構築物を高速かつ高品質に3次元計測し、「IndoorViewer」と呼ばれるWebビューワー上に物理空間を再現します。
「VLX」は足場の悪い現場でも人がデバイスを装着して歩き回ることでデータを取ることが可能です。「IndoorViewer」はあたかもその現場にいるかのようにバーチャルウォークや上下左右への視線移動ができ、寸法測定を行えるほか、付箋間隔で情報を付加することもできます。これらのプラットホームを使って「デジタルツイン」を実現するのが私たちの目指すところです。

NavVis VLX

IndoorViewer
建設・保全現場

IndoorViewer
工場内の施設・設備

「デジタルツイン」の実現を目指して

IoTの進歩や「デジタルツイン」、「デジタルトランスフォーメーション」といった言葉も今では世の中にかなり定着し、外部環境が明らかに変わってきています。製造業ではこうした技術を国内外の工場レイアウトのシミュレーションに使えるのではないか、といった期待が高まりつつありますし、建設業界においてもゼネコンを中心にBIMを使っての生産性向上を試みる例が見られるようになってきました。
しかしながら、私たちが目指す未来社会に対してはまだスタート地点に立ったばかりです。重要なことは、これまで製造業や建設業で取り組まれてきた効率化や品質向上の取り組みの上に、「VLX」や「IndoorViewer」を使った「デジタルツイン」を実現し、お客様とともに未来社会を目指していくことだと考えています。その上で、当社のもつ多様な技術や産学・国内外のパートナーの知見を活用しながら、未来社会の実現に尽力していきたいと思います。

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