KKEの現場から

歴史的建造物を後世に遺すため、震災等に耐える改修工事に臨む

構造設計1部 部長 川端 淳
構造設計1部 設計コンサル室 室長 裵 根國

 構造設計部の業務対象は「新築建築」、「建物の改修」の二つに大別されます。その両方の技術力を集結させて取り組んだ案件がありました。それが2014年より行われた神奈川県新庁舎の免震改修工事です。国内でも大変大きな規模の改修工事となりました。

構造設計部の技術を集結させ、大規模改修に挑む

 通常の設計事務所であれば設計のみ、建物診断は診断のみと、それぞれ独立して工事に関わります。一方でKKEではワンストップで設計段階から現場監理までを行える様々な知見を有しています。本件も事前に建物の調査、診断を行ったうえで建替え、耐震補強、制震補強、免震改修と様々な方法を比較検討し、最も効果的と考えられる免震工事を提案することができました。

 東日本大震災の発生により、歴史的建造物のレトロフィット(改修)が行われるケースが増えました。神奈川県の案件は、竣工から50年以上が経過した庁舎の景観を保存しながら、地震や津波対策も行うといった、いわゆる“免震レトロフィット(改修)”といった言葉には収まり切らない、防災対策の集大成ともいえるコンサルティング案件でした。構造設計部の「新築」と「改修」の技術力を結集し、歴史的建造物の補修に繋げることができたのは、当社にとって貴重な糧、経験になったと感じています。

神奈川県新庁舎の全景写真「撮影 小川重雄」

建物で働く人に影響しない大胆な免震工事

 新築の場合は竣工前に何か不具合があれば解決策を探ることが可能です。ところが、既存の建物の設計・改修には制約条件が多数あります。その中で最適解を見つけるには、高い技術力、経験値、建築に対する深い理解が求められます。特に補修工事は図面と必ずしも合致しない建物構造もあり、設計者の技量が大きく問われます。

 本案件は建物の高さ、大きさ、建物自身の重さといずれを取っても非常に大きな規模でした。
 設計時には着工から完成まで、どの順番でどう工事するかという工程設定も必要となります。14階建ての建物に職員、県議員が毎日登庁し、勤務するなかで果たしてどう工事するのか?また、全体を在来工法で耐震補強するために「この部屋に壁を作りたい」とプランを提案するとしたなら、意匠、設備といった各方面との交渉に加え、働いている大勢の人々をどうするのか、といった点を考慮して改修プランを作成する必要がありました。

 検討に検討を重ね、最終的に地下での工事を選択。地下の工事は足元で柱を切断し、建物を浮かして、免震構造を組み込むという、かなりの大掛かりなものです。万が一にも失敗が許されない状況で工事はスタートしました。

県庁舎 地下の様子
県庁舎 地下施工時の様子

BCPなど新たなニーズに経験を活かす

 工事は着工前に幾度も調査を重ね、練り上げられたプランに従って粛々と進められました。2014年から約3年間の工事期間中、遠目に神奈川県庁を見て、工事していることに気づく人はいなかったと思います。近付けば音は聞こえますが、県庁を訪れる方々もまさかそんな大規模改修が足元で行われているとは考えもつかなかったでしょう。この工法により、仕事場の引越しなどをすることもなく、働く方々への影響も最小限に抑えることに成功しました。全てを終えた時、難しいパズルを完成させた時のような達成感がありました。
 本案件で取り組んだ「レトロフィット改修」は、現在、落ち着きを見せてはいますが、これらの経験を新たなニーズに活かしていきたいと考えています。昨今はBCP (事業継続計画)による民間工場の改修ニーズが高まりを見せているので、これまでKKEが培ってきた技術を用いた様々な案件へ適用していきたいです。
 温故知新を胸に、新築、補修の両方で得た経験を双方向に活かし、価値ある建築物を後世に遺す一端を担うことで社会に貢献していきたいと考えています。

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