導入事例

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粉体・混相流シミュレーションソフトウエア「iGRAF」導入事例
味の素株式会社 様

「“わかりにくい”粉体の動きがシミュレーションできる『iGRAF』で無駄な原料の削減と、製品開発をスピードアップさせる道が開けました」
味の素株式会社 ⾷品事業本部 ⾷品研究所
商品開発センター ⽣産技術グループ
(右から)上席研究員 ⻄ノ宮 武氏、渋⽊ ⼀晃氏、⼭嵜 寿美氏
多種多様な調味料や飲料、加工食品、健康食品などを製造する味の素株式会社において、そのプロセス開発から工場設計まで、エンジニアリングに関わる技術開発を担当するのが、食品研究所商品開発センターの生産技術グループだ。同グループは、2017年9月に構造計画研究所(KKE)が開発した粉体・混相流シミュレーションソフトウエア「iGRAF」を導入した。その狙いと成果について、上席研究員の西ノ宮武氏、渋木一晃氏、山嵜寿美氏にうかがった

実機を使う実験より、効率の良い方法はないか?

当社の粉体シミュレーションソフトウエアを導入したきっかけを、教えてください。

各種調味料やスープ類をはじめ、当社の商品には「粉もの」がたくさんあります。私たちは、より良い製品づくりに向けて、粉体物性を制御する技術や機能を高めるための粒子設計などに取り組んでいるわけですが、実は粉体というのは、なかなかの“曲者”です。例えば、液体は混ぜれば基本的に均質な状態を保ちますが、粉の場合は偏析といって、いったん混ざっても、いつの間にか成分の偏りが生じます。そうした成分が不均一になったまま製造してしまうことにより、製品を廃棄しなければならなくなることもあります。

そういった問題が起きないように実験を行うわけですが、実際には小さなスケールで実験してできたことが、スケールアップするとうまくいかないといったことが起こり得ます。そうすると、実験はまた一からやり直すことになり、試行錯誤に時間を費やし、実験のために原料を無駄に使ってしまうという問題がありました。

渋⽊ ⼀晃氏

より効率の良い方法がないかと考えていた際に、学会で粉体シミュレーション技術の存在を知りました。興味を持って、専門家の酒井幹夫先生(東京大学大学院工学系研究科 レジリエンス工学研究センター准教授)の指導も仰ぎながら、1年間ほどシミュレーションの有用性を検討し、業務への導入を決めました。導入に当たっては、他社のシミュレーションソフトウエアも検討したのですが、「iGRAF」に決めたのは、操作が直感的で使いやすく「いいな」と思ったからです。

具体的には、どこを評価されたのでしょう?

他社の製品は、軽いトレーニングを受けながら試していました。逆に言うと、トレーニングなしでは、自分でパラメーターの設定をしたり、計算を走らせたりというのは難しそうでした。しかし「iGRAF」はチュートリアルを片手に計算できました。この操作が簡単で使いやすいというのが、一番の決め手でした。



「ざっくりとした再現性」が生むメリット

導入後は、どんなシミュレーションをなさっているのですか?

いろんな粉末製品がある中、共通するのは混合、排出、充填といった工程です。そういうところから手をつけていこうということで、まずはホッパーに粉を貯めて排出するというプロセスの解析から着手しました。


ホッパー内の粉末排出フロー

実際にお使いになった評価をお聞かせください。

私たちが扱う粉体は、1㎜よりも小さな粒子です。その粒子径でそのままシミュレーションをしようとすると、計算がものすごく大変になることを踏まえ、現象そのものを完全に再現しなければならないという考えは、もともと持っていませんでした。実際には、例えばA、B、Cの条件があったとしたら、それをスクリーニングにかけてみる、という使い方をしています。ざっくりとした再現性があれば、ワーストの条件を見つけることが可能で、製造ラインを止めてテストするコストは、3分の2に減らせるわけですから、そうした点での手応えは、大いに感じています。

また異なる装置の形状を試そうと思ったら、実際に装置をつくるために数カ月はかかります。実験、分析もすぐ済むというわけにはいきません。「iGRAF」を使えば、結果が1週間くらいでわかるため、時間短縮のメリットも、非常に大きいものがあります。


⼭嵜 寿美氏

 

使い勝手の良いソフトウエアを選んだ背景には、社内で広く使われるようになればいい、という考えもありました。私たちもまだ走り始めたばかりの状態であることもあり、現場から課題がどんどん上がってきて、それを次々に解決するというのはこれからのステージです。現在は「こんなことを始めました」と研究所での周知に努めています。

シミュレーションの動画を見せると、「粉の動く様子が似ている」というコメントが、多く返ってきます。実験しか経験したことのない研究者が、「これは使えるかも」と評価したり、「こういうことはできるか?」と興味を示したりします。






シミュレーションのノウハウを蓄積し、設計に活かしたい

お話をうかがうと、これから活用の仕方がどんどん広がっていく感じがします。

そうですね。例えば、実際の粒子径で計算することは難しいと言いましたが、そこにどういうふうに近づけていくのかといった部分は、事例を積み重ねながら、ノウハウを蓄積していきたいと考えています。

ソフトウエアの活用の仕方としては、現場から上がってくる課題に解決策を提示するというのが一つです。もう一つは、いつも使っている装置の最適なオペレーションは何か、という基礎的な知見を積み上げていくことができるのではないかと考えています。装置を使ったテストを繰り返すことで製品化の工程に進むことが業界の主流でもありますが、本当は別のやり方のほうが、低コストで良いものになっていたのかもしれません。そういう、経験則に頼るような部分を、ある程度理論に置き換えていけるのではないかという可能性を感じます。

⻄ノ宮 武氏

 

ゆくゆくはシミュレーションの結果を、装置の設計にフィードバックしていくような、「小さい粒子と大きな粒子を混ぜるために、こういう撹拌装置を設計しましょう」というようなエンジニアリングに、普通に使われる環境を目指しています。まずは既存の装置の改良になりますが、なるべく早く成果に結び付けたいと思っています。

最後に、当社に対する今後の期待などを聞かせてください。

私たちが困って連絡すると、「こうすればいいですよ」とすぐに対応してくれ、そういうサポートの厚さには、本当に感謝しています。「iGRAF」自体、まだリリースしてそこまで時間が経っていませんから、これからどんどん機能がアップグレードされてくるのだと思います。引き続きフォローをお願いします。




取材日:2018年11月

味の素株式会社について
設立:1925年
本社所在地:東京都中央区京橋一丁目15番1号
ホームページ:https://www.ajinomoto.com/jp/

この事例に関するお問い合わせ

SBDプロダクツサービス部・SBDエンジニアリング部
TEL:03-5342-1051
E-mail:sbd@kke.co.jp
Web:https://www.sbd.jp/

※記載されている会社名、製品名などの固有名詞は、各社の商標又は登録商標です。
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