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導入事例
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熱流体解析ソフトウェア FloEFD for Creo導入事例セイコーエプソン株式会社 様
ビジュアルプロダクツ事業部 VI企画設計部
(左から)阿部浩士氏、石橋直樹氏、菊池繁樹氏、湯沢史夫氏
1989年世界初の液晶プロジェクターを発売
セイコーエプソン豊科事業所
セイコーエプソン(以下エプソン)豊科事業所について教えてください
豊科事業所では、主にプロジェクターとそのインターフェイスの開発を行っています。
エプソンにおけるプロジェクター開発について教えてください
弊社では1989年、液晶プロジェクターを世界で初めて発売して以来、ビジネスシーンや教育現場、家庭のリビングなど多種多様なニーズに合ったプロジェクターのラインナップを提供し続けています。
プロジェクターは電源やランプなど複数の熱源を筐体内に抱えており、相当な高温になります。プロジェクターは年々明るくなり、商談時に持参していけるくらいコンパクトになりました。小型化していく過程では、形がそれまでのプロジェクターと変わっていくため、基板の配置から作り直していくことになります。
最新のプロジェクターは無線LANを搭載し、スマートフォンから映像を飛ばすこともできます。高機能、小型化するに連れ、熱対策はより難しくなり、プロジェクターの開発は、熱との戦いの歴史です。
エプソンの代々のプロジェクター 明るさ、大きさ、価格の変遷
より明るく、よりコンパクトに ~ プロジェクター開発は熱との戦い
詳しく教えてください
以前は、すべてに余裕がありました。プロジェクター自体が今ほどの明るさがなく熱もさほど出ません。納期もゆったりしていて、機種も多くありませんでした。実験してみて不合格だったら、もう1回作り直せばよかったのです。 今は高機能になり、明るさが増し、小型化し、納期も短くなりとすべての面で厳しくなっています。 開発期間も、約半分になりました。
熱対策については、小型化により熱の逃げ道がピンポイントにしかなく、そこを探すしかない。そうなると、もはや設計者の経験や勘だけでは対応できません。冷却が必要な場所はたくさんあり、温度センサーの本数は増え、コストは増加していきました。
設計品質向上のために必要なSimulation
FloEFD for Creo導入の目的:設計者自身による熱解析 ~ 開発環境の変化への対応
熱対策はどのように進んだのでしょうか
弊社における熱対策は、1990年代からエプソンブランド全製品を対象とした解析の専門家チームでシミュレーションを行ってきました。 しかし、近年では解決すべき技術的条件が厳しくなる一方、開発コストの抑制と開発期間短縮が要求され、それらの課題に対応するために、2007年からはプロジェクター専門の解析チームが事業所内に誕生しました。
その後も開発スピードは増し、開発の早い段階で高い性能を出さなければ間に合いません。専門家チームによる解析を待っての設計では追いつかなくなりました。 そこで、設計者自身が解析を行いながら設計を進めるために、2009年にFloEFD for Creoを導入しました。
FloEFD for Creo選定の理由 ~ 驚くほど簡単に解析ができる
FloEFD for Creoを選んだ理由はなんですか
「FloEFD for Creoは誰にとっても使いやすいと触ってみて思いました」
ビジュアルプロダクツ事業部 VI企画設計部 阿部浩士氏
設計現場への解析ソフト導入で重視したのは、メンバー全員が使えるソフトであることです。初心者にも熟練者にも使える熱解析ソフトとして、FloEFD for Creoの以下の点を評価し、導入しました。
1点目に、シミュレーションの経験がない設計者であっても、簡単に扱えることです。
シミュレーションソフトのハードルの高さの理由の1つがメッシュ切りですが、FloEFD for Creoは解析したい3次元データがあれば、解析したい範囲を指定するだけで自動でメッシュを切ることができます。
ワークフローも、ウィザードに従って「はい」「いいえ」と選びながら繰り返して使うことで自然に覚えられるようにできています。それでまた使おうと思わせてくれるところが他の流体解析ソフトと大きく違うところです。
2点目に、Pro/ENGINEER(CAD)統合型のソフトだという点です。
この利点は2つあり、1つはこれまでに設計してきた3次元データをそのまま使用して解析が行えること。条件だけを設定すれば解析してくれるという点が魅力です。
もう1つは、設計しているCAD上の同じ画面で解析するので、設計しながら仮想のタイプを次々と検証し、設計に反映していくことができます。設計者はCADにはなじんでいて、CADに対して自信も親和感もあります。FloEFD for CreoはCADの1機能のような設定なので違和感がありませんし、違うソフトを立ち上げるという面倒さもありません。
冷却シミュレーション技術の向上
3点目にライブラリーの豊富さです。全世界レベルのデータベースを持っていて、特にFloTHERMのデータベースが利用できるのは利点です。ユーザーのことを考えていてくれると思いました。
FloEFD for Creoはどのように設計者に浸透したか
「初めてでもそれを見れば使えるような内容でマニュアルを作りました」
ビジュアルプロダクツ事業部 VI企画設計部 石橋直樹氏
FloEFDを設計現場に浸透させたコツを教えて下さい
実は最初は浸透させられる確信はありませんでした。試しに1本だけ導入しました。そうしたら評判が良くて希望者が多かったので、すぐに1本増やし、また増やしで、今は6本入れています。
コツといいますか、コミュニケーションです。ざっくばらんに「これ、使いやすいんだよ。使ってみたい?」と1人2人に話してみて、自分から使いたいと言ってもらえたらしめたもので、そこから広がります。くれぐれも強制はダメです。
シミュレーションの結果が予想と乖離しているときは、習熟した解析者に相談できる仕組みもできていますので、次の手を見つけることができ、習熟のスピードが早まっています。
エプソンにおける操作マニュアル“「FloEFD for Creo」起動(その1)”
あとは、マニュアル作りです。私の方でランプなど解析対象別に、流れ解析全体の使い方を、初めて使う人でも誰でもそれを見れば使えるような内容で作りました。
構造計画研究所のマニュアルも丁寧にできているので、それを参考に弊社の扱うパーツに合わせて作成しました。
今ではシミュレーションなしの設計は考えられない ~ FloEFD for Creoでわかったこと
FloEFD for Creoが初心者に使い勝手がいい点はわかりました。それでは熟練者の方はいかがでしょうか
「解析なしの設計はもうできません」ビジュアルプロダクツ事業部 VI企画設計部 湯沢史夫氏
20年ほど解析を行ってきましたが、中でも熱流体解析は難しい解析です。ですが、FloEFD for Creoに触ったときに「あ、こんな簡単にできるの」と驚きました。
簡単とは
いわゆる高級解析ソフトだと、流体力学をそのまま再現したようなメッシュ切りをするのですが、FloEFD for Creoは 8段階あるメッシュのどのメッシュを使うか設定するだけです。
ただ、この8段階の中のどれを使えば合理的か、個々のパーツによって、どのくらいのメッシュでどのくらいの精度が最適か、現在そのノウハウを貯めているところです。時間とPCパワーがあれば細かいメッシュがいいのでしょうが、かと言って切りすぎてもムダなこともあります。
FloEFD for Creo 計算Meshの最適化
3Dプロジェクターでは、なかなか冷えずに苦心していたのですが、FloEFD for Creoで解析したら冷えない原因がわかりました。 例えば、冷却するにはファンを使うのですが、ファンと冷却系は1対1の関係なんです。
同じ冷却系を使っていてもファンを換えてしまうと同じ結果が出ない。必ずファンの特性と冷却系の特性を合わせないといけないということが解析をするまでわかりませんでした。
以前も間違ったところにはまり込んで実験を繰り返していたときに、石橋の解析で助けてもらったことがありました。 石橋の解析を見た瞬間、「この先はなかったんだ」と思いましたね。
自分の設計者の直感がこれでいいと言っていても解析してみると違うことがあります。そういうときにははっと我に返り、解析って助かるなと思います。
画像を無線で飛ばしてプロジェクターに投影させるのですが、この冷却も大変なんです。 自然放熱では厳しい温度になります。この場合はランプではなく、無線LANの半導体チップが熱くなります。 熱くなると溶けたり、異臭がしたり、基板が壊れたりしますが、これも高機能と冷却の相反するニーズです。 半導体はディレーティングといって規格をフルで使うと壊れます。性能が落ちてきて、電送が遅くなり画像がゆがむ。
ですから規格の60%くらいのところを狙って設計するのですが、その微妙なさじ加減が難しく、FloEFD for Creoで解析して対応しました。今では、解析はせざるを得ないもので、解析なしの設計は考えられません。
もちろん、設計には経験や勘は必要です。意外とこれでいけるはずと思って設計しても予想が外れることがあるので、 解析が軌道修正をして、正しいところをまで導いてくれます。
FloEFD for Creoの解析と実験の整合性はどのくらいですか
それは冷やしたい場所によります。CPUなどは、かなりの精度で合致します。狭い場所だと設計者のノウハウが必要で、精度は若干下がります。筐体を冷やすという場合は、実験がいらないくらいの精度で合致します。
今後の期待
今後の課題があればお聞かせください
音の専門家 菊池繁樹氏
ビジュアルプロダクツ事業部
VI企画設計部
プロジェクターの場合、国内だけでなく、高温多湿な国や標高の高い国でも多く使われています。その場合、気圧変化、温度変化、環境変化を考慮した設計が必要となります。気圧が変わると音も変わるからです。
以前はファンの冷却効率を高めればスムーズに風が流れ、音も下がるというシミュレーションでしたが、薄いプロジェクターでは大きなファンを使用できないため、小さなファンが5個、6個と付いていて、音の問題は極限にきています。そこで音対策が必要になり、音の専門家も解析チームに加わりました。 うまく冷却できたと思っても、音が予想以上に高ければ音の対策が必要となり、設計者は音でも苦労しています。
耳障りな音などの聴感実験を数年前からやっており、エプソンのプロジェクターは耳障り感がないようにつくるようにしています。聴感実験というのは、大勢の人に実際に音を聞いてもらう実験です。同じ大きさの音であっても気になる音とあまり気にならない音があるので、気にならない音を採用するようにしています。
構造計画研究所に対してご要望などあればお願いします
先ほどライブラリーが充実していると話しましたが、通常データベースごとに課金設定されているケースがほとんどですが、構造計画研究所が販売しているこのソフトウェアでは特に課金されていません。設計者としては細かいことを気にしないで設計に専念できる環境を提供していただけて助かっています。
構造計画研究所との付き合いも、1993年からですから約20年になります。 もともと建物の構造設計に解析ソフトウェアを利用したのが出発で、そのようなバックボーンから解析ソフトウェアの設計への利用に関してノウハウの蓄積があることを担当者と話していて感じます。構造計画なら間違いなく知っているはずだと思っているので、迷ったときなどには電話をしてサポートを受けています。 熱だけではなく音も課題のプロジェクター開発です。これからもご支援をよろしくお願いいたします。
取材日:2012年9月
セイコーエプソン株式会社について
創立 1942年5月
本社所在地 長野県諏訪市
ホームページ http://www.epson.jp/
この事例に関するお問い合わせ
SBDプロダクツサービス部・SBDエンジニアリング部
TEL:03-5342-1051
E-mail:sbd@kke.co.jp
Web:https://www.sbd.jp/