講演レポート

宇宙ビジネスの展望と民間によるロケット開発

構造計画研究所は、インターステラテクノロジズ株式会社が展開する、宇宙産業を日本の新たな産業にするためのパートナーシッププログラム「みんなのロケットパートナーズ」に参画しています。長年培ってきたシミュレーション技術や品質リスクマネジメントの知見を活用し、今後大きな成長が見込まれる宇宙産業の発展に貢献することを目指しています。
本記事では、インターステラテクノロジズ株式会社 代表取締役の稲川貴大氏に、宇宙産業の展望や同社が提供している価値について語っていただきました。

稲川 貴大 氏
稲川 貴大 氏

インターステラテクノロジズ株式会社 代表取締役

学生時代から人力飛行機やハイブリッドロケットの設計・製造を行い、東京工業大学大学院機械物理工学専攻を修了したのち、インターステラテクノロジズへ入社、2014年より現職。「誰もが宇宙に手が届く未来」の実現を目指し、経営と同時に技術者として小型ロケットを開発している。観測ロケットMOMOで日本の民間企業単独として初めての宇宙空間到達を達成。現在は超小型衛星用ロケットZEROの開発に取り組んでいる。

大きな可能性を秘める宇宙産業

 私たち、インターステラテクノロジズ(以下、IST)は、自然豊かな北海道の十勝地方、海沿いの大樹町という町に本社とロケットの発射場を置いています。
 2019年5月、ISTが打ち上げた「宇宙品質にシフト MOMO(モモ)3号機」が宇宙空間に到達しました。民間企業としては日本で初めてです。といっても、ロケットとビジネスが結びつかない人が多いと思います。ロケットのビジネスモデルは極めてシンプルです。一言で言えば輸送業です。地上の輸送業であれば、トラックで荷物を運んでその配送料をいただくのがビジネスですが、ロケットの場合はお客様の荷物をお預かりして宇宙空間まで運び、その配送料をいただきます。
 現状は大きな課題があります。まず、打ち上げの頻度、そしてコストです。日本においてはこれまでずっと、国が主導してロケット開発を行ってきました。そのため、種子島の宇宙センターなどから、年間に3回か4回ほどしか打ち上げられません。ロケットに載せるものも、気象衛星のひまわり、日本版GPSのみちびき、安全保障のための情報収集衛星など、大型の衛星が中心です。コストも、大型ロケットの場合、配送料だけで100億円もかかります。私たちは、この現状をなんとか変えたい。宇宙へのアクセスを多くの人に届けたいと考えています。輸送業として、早く、安く、どこにでも運べるロケット、輸送サービスを作るのが私たちのチャレンジです。
 具体的なプロダクト、サービスとして2種類を考えています。最初に紹介したMOMOは観測ロケットと言われるもので、宇宙空間にタッチして地上に下りてきます。宇宙空間や中間圏、電離層といった上空の観測ができるので、サイエンスの用途に使われます。そして、今、私たちが力を入れて開発をしているのが、「ZERO(ゼロ)」と呼んでいる小型衛星を運ぶロケットです。

 今、宇宙産業に大きなパラダイムシフトが起こっています。具体的に言えば官から民への流れです。民間企業が産業として宇宙を使う時代になっています。例えば有人宇宙旅行。米国では、宇宙旅行のサービスがすでに誕生しています。米SpaceX社は、ロシアのウクライナ侵攻の際、ウクライナに通信衛星サービスの「スターリンク」を提供したことでも注目されました。このほか、運用終了した衛星など「宇宙ごみ(デブリ)」の除去などにも多くの民間企業が参入しています。こういったことから、宇宙産業の規模は約40兆円とも言われており、2040年には100兆円規模になるという試算もあります。

今後、小型ロケットの需要が急速に高まる

 こうした中、私たちがやりたいのは小型ロケットの輸送業です。人工衛星の市場は、大型・少数の時代から小型・多数の「コンステレーション(複数の人工衛星の連携)」の時代になりつつあります。大きな理由は、半導体の進化です。人工衛星はコンピュータの塊であり、かつてはマイクロバス1台くらいの大きさがありましたが、今ではスマートフォンほどのサイズのコンピュータで処理できるようになりました。またコストも、高額なものでは500億円ぐらいしましたが、それが数千万から数億円程度で作れるようになっています。
 こうした流れから、小さい人工衛星の数はどんどん増えています。2011年に小型の人工衛星は世界で年間28基ほど打ち上げられました。ここ数年は、年間1000基を超えています。通信、リモートセンシング、安全保障など、さまざまな領域で小型衛星の利用が広がっています。
 その一方で、国内から人工衛星を打ち上げているロケットは、種子島、内之浦から打ち上がっているH-ⅡAロケット、イプシロンロケットの2種類しかありません。私たちはそこに対してサービスを提供しようとしています。具体的には年間数十回以上、ゆくゆくは年間1000回の打ち上げ需要も見込まれています。

自社で一気通貫で開発し、コストダウンを実現

 ロケットの技術は現在、エンジン、燃料など、国によって、また企業によってばらばらで競争し合っているような段階です。そうした中で、私たちが開発しているZEROがどのような価値を提供するのか。
 まずは低コストです。徹底的に安いロケットを作ろうと研究開発をしています。設計から製造、試験・評価、打ち上げ運用まで、自社で、一気通貫で行っているのも大きな特長です。ロケットエンジンも自社開発することでコストを10分の1程度に削減できるようになっていますし、電子装置なども自社で開発しています。また、一つ一つのパーツはできるだけ民生品を活用しています。主要部品の内製率は高く、自動車業界からの生産技術を導入し、低価格・高品質を実現しています。さらに、設計の工夫による部品数の削減、3Dプリンタなど最新技術も活用しています。
 ZEROの燃料はメタンです。ロケットの燃料には固体燃料、水素燃料などがあります。その中でもメタンは都市ガスにも使われているもので安価です。また、小型ロケットなのでオンデマンドで打ち上げることができます。さらに、私たちは北海道を本拠地としてロケットの発射場にしているので、東側でも南側でも、広角度の打ち上げが可能です。また、ZEROは量産・使い切り型です。これにより単価も低減できます。1回使い切りの極限設計が可能で、メンテナンスも不要です。
 社内には、設計工学、システム工学、材料・生産技術、自動化・最適化・AI、信頼性工学といった各分野を得意とするエンジニアが集まっていますが、自社だけではできないこともたくさんあり、外部の方々との連携も非常に大事だと思っています。そこで、ISTでは全産業参加型の宇宙開発プログラム「みんなのロケットパートナーズ」を立ち上げました。現在、産官学からなる36の企業・団体に参画いただいて、支援をいただいています。
 2021年1月にはISTの子会社として、小型人工衛星開発の「Our Stars」を設立しました。このほか、同年4月には、アジア初の民間に開かれた宇宙港「北海道スペースポート」を運営する「SPACE COTAN」が本格稼働しました。そしてその整備を推進するために企業版ふるさと納税を募り、地元企業を中心に支援をいただいています。SDGsの観点では、牛糞メタンによる地産地消のバイオ燃料の活用などにも取り組んでいます。

 将来的には、有人カプセルなど、さらに大きなものを乗せられるようなロケットを開発したいですね。その先にはさらに、宇宙旅行ができるような宇宙船も作っていきたいです。最終的な野望は、太陽系外を探査できるような技術まで開発することです。それにより、新しい産業を日本国内からしっかりと作っていきたいと願っています。

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