展示レポート
ヒト・モノ・エネルギーの流れをデザインする
ーコンピュータにも“機能(働き)”が見える建築情報ー
構造計画研究所は、東京大学生産技術研究所と社会連携研究部門「建築・都市サイバー・フィジカル・アーキテクチャ学」を2020年4月に設置し、サステナブルな建築・都市の実現に向けた共同研究を進めています。本展示はその途中経過を報告するものです。
コンピュータが建築環境の機能(働き)を取り扱うための、新しい建築情報の在り方とは?建築要素の「機能的なつながり」を体系化しサステナブルな建築環境を実現します。
取り組む社会課題
持続可能な社会の実現に向け、建築環境においてもエネルギーや建築ストックの効率的な活⽤がより求められています。⼀⽅、⼈⼿不⾜が深刻化しているため、それらの運営を、コンピュータやセンサー・機械を⽤いて効率化・⾃動化していくことが、打ち⼿の1つになります。その実現のためには、空間・構成材(設備や窓・ドア・ 壁など)の機能的なつながり(接続や影響関係)の上に成り立つ、建築環境のメカニズムを捉えて処理していく必要があります。しかし、CADやBIMなどの既存の建築情報は、⼈間の読み解きで暗黙の情報を補うことを前提として進化してきたため、機能的なつながりが明⽰されておらず、複雑な処理を実装しなければコンピュータで読み取ることはできません。そのような機能的なつながりの情報を体系化して「新しい建築情報」として整備することで、コンピュータの可能性が加速度的に広がり、建築物の価値の向上につながると考えています。
「解」へのアプローチ
「セマンティックデータモデル」の手法
情報のコンピュータ可読や隣接ドメインでのデータ相互利⽤を⽬的として、Web検索(セマンティックWeb、SEO)やオープンデータ(バイオサイエンスデータ、統計、知識データベース)の分野などで実⽤化されている、「セマンティックデータモデル」というデータ体系を、建築の情報記述に応⽤します。こうした体系は、RDF(Resource Description Framework)やLOD(Linked Open Data)、メタデータスキーマとも呼ばれています。
引用元:オープンデータ評価指標「5 Star Open Data」 https://5stardata.info/ja/
「セマンティックデータモデル」の特徴
①要素と要素のつながりをネットワーク構造で表現できる。(設備の系統関係や要素間の影響を⽰すことができる)
②電気設備や衛生設備など専門領域で別々にデータ整備をし、必要に応じて統合して1つのデータベースとして扱うことができる。
③要素のプロパティ構成の⾃由度が⾼いため、要素の特徴によって柔軟に情報記述できる。(構成要素が多く、長期間の寿命の中で変化を伴うという建築の特徴に合致)
図⾯からコンピュータが建築物の機能(働き)を理解することは簡単ではないが、セマンティックデータモデルで建築要素の関係構造を記述することで、比較的簡単な手法で読み取り処理していくことが可能となる
1.セマンティックデータモデルのデータベースの作成
建築の部屋のつながりや設備系統などの情報を、担当領域毎に分離して整備
【データ整備について】
既存物件: 図⾯や設備台帳などから⾃動・⼿動の⼿法を組み合わせて、機能的なつながりの情報を復元していきます。
新規物件: 機能を整理する業務をセマンティックデータモデルの作成の業務に置き換え、その情報からCADやBIMデータなどを半⾃動で起こすことを検討しています。
2.アプリケーションの構築
ネットワーク探索やグラフマッチングのアルゴリズムを活用して抽出。基本的に建築を保有・管理する事業者の情報ネットワーク内とし、メーカーが公開する機器の仕様情報などはインターネットに公開し複数事業者の効率化に寄与することを想定。
活用例
①設備インフラの故障箇所の探索
⽔道・空調・電気などの設備や配管などをネットワークモデルとして管理することで、⼀ 度情報化してしまえば、専門外の担当者でも、不具合発⽣時にネットワークを辿って上流・下流に検索でき、原因・影響範囲を推定し迅速な対応ができるようになります。また、故障事例と同じネットワーク構造を持った箇所を、物件を横断して探索することで、同様の故障リスクの潜在箇所を推定できる可能性があります。
②猛暑などエネルギー逼迫時の、利用抑制箇所の細やかな判断
現状、節電要請などが発令された際の節電箇所の選定については明確な判断材料がなく、あいまいに決定されるケースが多くあります。しかし、将来は何千棟もの施設の⼤量の部屋毎に利⽤⽤途と空調などのエネルギー消費の関係を分析して、合理的に優先度をつけるという、緻密な対応が必要となるかもしれません。その際の情報源としてセマンティックデータモデルを活⽤できる可能性があります。
③建築の機能の設計の形式知化
従来、設計者による機能の設計の暗黙的なノウハウは継承が難しいものとされてきましたが、設計された機能をセマンティックデータモデルとしてデータ化することで、知識形成の材料として活用できます。また、それをもとに設計をサポートするアルゴリズムを開発できるかもしれません。
今後の展望
これらのアプローチはまだ研究開発段階ではありますが、将来的には建築における要素のつながりを記述する「新しい建築情報」としてBIMなどの既存の建築情報を補完する役割を担う可能性を秘めていると考えています。
一方、建築情報のアーキテクチャを構想するだけでは価値を生むことができず、データ整備とデータ活用を担う多くのサービスやアプリケーションと連携することが不可欠です。
そのようなパートナーシップが広がっていくように、ビジネスとアカデミックの両輪の取り組みを継続していきたいと思います。
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