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導入事例
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技術コンサルティングおよび建築構造解析プログラム 導入事例西松建設株式会社 様
(左から)上席研究員(グループ長)博士(工学)高橋 孝二氏、主任 山崎 康雄氏
住環境に影響を与えない制振補強を実現
新工法の共同開発は、2010年10月から着手されたと聞いています
当社は、地震力に対して建物の強度で抵抗させる「耐震補強」を手がけており、建物の振動エネルギーを吸収して揺れを低減させる「制振」については当時手付かずでした。以前から高層建築の設計にKKEの耐震構造計算ソフト『RESP』シリーズ(RESP)*を利用していましたが、そのKKEから「独自の制振ダンパーシステムを用いた設計、施工法を開発できないか」という提案があり、共同開発を進めることになりました。
* RESPシリーズは3次元フレーム汎用解析プログラム『RESP-F3T』、時刻歴応答解析向け構造計算プログラム『RESP-D』など、独立した複数の構造解析プログラムからなるパッケージです。各プログラムおよびそれらを組み合わせ、超高層建築や免震建築・制振建築など特殊構造物の耐震検討を行うことができます。
どのような工法を開発されたのでしょうか
高橋孝二氏 |
今回開発した『BiDフレーム工法』は簡単に言えば、既存の建物の外側に鉄骨フレームを自立させて建物と接続させ、地震の際には、鉄骨フレーム柱内のダンパーシステム(『AFT ダンパーシステム』**)に揺れを吸収させる、という制振補強工法です。この「フレームにダンパーを内蔵させた構造」というところが肝で、これにより、従来の同種の制振補強では避けられなかったブレースの取り付けが不要になります。
バルコニー側にフレームを設置した場合、これまでは、窓の外をブレースが斜めに取り付くことになり、眺望や採光などの住環境に少なからず悪影響を与えざるをえませんでした。当然のことながら、居住者の評価は良くありません。『BiDフレーム工法』ではこのデメリットを解消できたことで、他の工法と大きな差別化が図れたと考えています。
なおフレームを「外付け」する構造のため、補強工事に際して一時的に引っ越すような必要がないのもメリットで、この点は施工を施した居住者にも満足いただきました。
**『AFT ダンバーシステム』は住友ゴム工業(株) が性能証明を取得している技術です。
補強前後の外観(バルコニー側)
これまでにない工法開発への挑戦
新工法開発に当たって、苦労された点などお聞かせください
いくら住環境に影響を与えないといっても、肝心の制振能力が劣ったのでは、話になりません。補強性能が優れていることを証明することも、必要になります。そこで、プログラムの開発元であるKKEには、『RESP』の利用を軸とした構造設計コンサルティングをお願いし、工法開発における設計方法の策定、解析、性能証明の取得まで一貫した支援を依頼しました。
構造実験を実施し、解析を行って、それらも加味した設計指針や施工法を確立していくのですが、何しろ今までにない工法のため、自分たちでつくり出していかなければならないことが多くありました。なかでも、複雑なダンパー計算モデルのパラメータ検討には苦労しましたが、結果的には解析の値と実験結果の高い相関が確認されました。
また今回我々は建築構造分野の技術活用に留まらず、KKEの機械系解析チームの協力を仰ぎました。地震時に関節のように変形するBiDフレームの軸力伝達機構の機械的な精度検証の解析や、外付け制振フレームが夏の日射を受けた際のゴム部や各部の温度を解析し、制振性能の確認検証をする業務を依頼したのです。
外付け制振フレームのカバー内部、日射面の温度分布。
計算には熱流体解析ソフトウエア SolidWorks FlowSimulationを使用した。
試行錯誤を経て、2012年1月には財団法人日本建築総合試験所の「建築技術性能証明」を取得することができました。実験開始から1年ほどで成果を出せたのは、優れたソフトとKKEの的確な技術支援のおかげと言えます。
技術の普及に向けて-市販プログラムへの計算機能追加-
教科書がない状態でスタートした工法開発のさまざまな局面で、KKEは当社の疑問や要望に対応し、積極的な提案をしながら『RESP』を実務に使えるように機能追加も施しました。
当社は長年『RESP』ユーザーであり、『RESP-D』は時刻歴応答解析が必要な超高層建物の設計検討等でよく利用していますが、とても使い勝手が良いです。入力の仕方がわかりやすく、応答解析のプロセスも設計者の意図通りに流れていきます。設計者の気持ちをよく理解されていると感じます。普段から利用しているプログラムに『BiDフレーム工法』が標準機能として搭載されたことで、従来の設計フローから大きく逸れることなく工法を検証できるので、作業効率化が実現し、非常に助かっています。また第三者でもこの工法を用いた設計が可能になったため、技術の普及にも寄与することを期待しています。最終的に『BiD フレーム工法』が『RESP-D』の計算機能として組み込まれ、対象の建物にこの施工を施した場合、地震による揺れに対する挙動がある程度把握できるようになったのは、大きな成果でした。
山崎康雄氏 |
この工法の対象となるような中高層の「危険な」建物は、星の数ほどあり、実際にはまだまだ対策が進んでいないというのも現実です。従来にないメリットも訴えながら、普及を図っていきたいと思います。
KKE とは長い付き合いですが、ただソフトを売るだけではなく、構造設計・コンサルティングの実務経験を持つエンジニアが親身になってサポートしていただけるところがありがたいですね。担当者レベルでの交流も多いため、無理難題も相談しやすい。一緒に新たなプロジェクトも始動していますが、今後とも変わらぬキメ細かなサポートをお願いしたいと思います。
取材日:2019年2月
西松建設株式会社について
設立:1937年
本社所在地:東京都港区虎ノ門
ホームページ:www.nishimatsu.co.jp/
この事例に関するお問い合わせ
エンジニアリング営業1部
TEL:03-5342-1136
E-mail:kaiseki@kke.co.jp