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衛星測位分析ツール「GPS-Studio」活用事例
株式会社竹中工務店 技術研究所 様

「建設現場の施工管理にドローンが使えないか?
シミュレーションツールGPS-Studioの活用で、その課題に一つの答えが出ました」
株式会社竹中工務店 技術研究所 高度空間制御部 電磁・振動環境グループ
研究主任 鶴田 壮広氏
建設現場の施工管理にドローンの空撮写真を活用すると、さまざまなメリットがある。しかし、特に都市部の現場では、周りを高層ビルが取り囲むような状況は珍しくない。その場合、はたしてドローンがGPSなどのGNSS(※)信号をきちんとキャッチし、安定飛行できるのかという課題があった。竹中工務店は業界で先行してそのテーマに挑むべく、構造計画研究所(KKE)の衛星測位分析ツール『GPS-Studio』を使い、実際の現場での測位精度評価に取り組んだ。同社技術研究所の鶴田壮広研究主任に、その成果などについてうかがった。
※GNSSは一般的な衛星測位システムのこと。GPSは米国の衛星測位システム。

1. 土木工事現場ではすでに始まっているドローンの活用

建設現場へのドローン導入を検討した背景から教えてください

私が所属する電磁・振動環境グループでは、主に建物内部での電波環境の制御について研究しています。分かりやすい例を挙げれば、病院の手術室や検査室のように電波に弱い機器を設置する環境に電波を侵入させないためにはどうすべきか、無線LANのアクセスポイントをどのように配置したらストレスなくインターネットを使えるか、といった課題に取り組んでいます。

建設現場の施工管理という今回のテーマは、それらとは少し色合いが違うのですが、実は広大な土地で行う土木工事などではすでにドローンが使われています。たとえば、地面の掘削がどの程度の深さまで進んでいて、どれだけの量の土が掘り出されているのか目視で測るのは大変な作業で、時間もかかります。また、人が近づきにくい環境の場合もあるでしょうが、それをドローンで計測するわけです。空撮写真を基に、掘り出した土量の容積を算出することで、適切に工事の進捗管理を行うことができます。また、ドローンによる空撮での工事記録は、従来のヘリコプターによる空撮に比べて大幅なコスト削減も実現できます。ゆえに、「ぜひ街なかの建設現場でもドローンを使いたい」というニーズが出てきたのですが、そのためにはクリアにしておく問題がありました。

そこに電波が関わってくるわけですね

そうです。ドローンはGNSSによって飛行が制御されます。ところがGNSSは、多くの高層ビルに囲まれた都市部のように、建物などによる電波の遮蔽や反射・回折を受けやすい環境下では測位精度が落ちてしまう。その結果、制御不能になり、最悪、建物などにぶつかって墜落、といった危険性が否定できないのです。これでは、いきなりドローンを飛ばすわけにはいきません。他のゼネコンも含めて、都市部の建設現場においてドローンのGNSSの測位精度を検証した前例はなく、参考になるデータもありませんでした。


そこで、ドローンを安定的に運用するために、現場毎にGNSSによる測位精度を予め評価できるツールはないかといろいろ調べている時に、KKEの衛星測位分析ツール『GPS-Studio』を知りました。以前から、室内電波伝搬の分析に、今回のソフトと計算原理が似ているKKEの『RapLab』が使えないか関心を持っていたこともあり、問い合わせをしたのです。

街なかでのGNSSの電波伝搬状態

▲街なかでのGNSSの電波伝搬状態



2. 実際の現場でシミュレーションし、実機で検証

お問い合わせいただき、東京都内の建設現場を対象としたシミュレーションを委託業務というかたちで実施しました

『GPS-Studio』は、GNSS受信アンテナ周辺の建物モデルを用いて、衛星から受信アンテナまでの電波の空間減衰や、信号の伝搬経路、受信電力、位相を模擬し、受信機の観測情報を推定するソフトです。今回の現場は、近くに高層ビルがありGNSSにとってはシビアな環境でしたが、シミュレーションの結果、「低地では不安定ながら、高度を上げるほど信号の受信状態は向上し、上空50mならばドローン運用に十分なGNSSの測位精度を確保できる」ことが明らかになりました。


その後当社は、実機を使ってシミュレーションとの比較検討を実施。その結果、実際の受信状態とシミュレーションのデータとは、おおむね傾向が一致しました。建設現場でのドローンの飛行は、なにも1㎝単位の正確さが求められるわけではありませんから、十分“使える”精度であることが実証されたと考えています。その現場では、実際にドローンを使って施工管理を行いました。また、我々はこの成果を2017年の日本建築学会で「都市部の建設現場におけるGNSSによる測位精度評価」として発表しています。


ただし、「50m上げればOK」というのは、あくまでも今回の現場に限った結論です。建設現場でのドローン活用の際に、より汎用性のあるソフトにしていくためには、多くの現場で解析・実測を行い、データやノウハウを蓄積していく必要があると考えています。


アンテナ地上高と誤差/標準偏差の関係

▲アンテナ地上高と誤差/標準偏差の関係

出典:鶴田壮広 西野高明:都市部の建設現場におけるGNSSによる測位精度評価,日本建築学会大会学術講演梗概集,(中国) 2017年8月



3. “ニッチなツール”から“一般向けのソフト”へ

研究主任 鶴田 壮広氏

他に課題だと感じる点はありますか?

今回のような規模のシミュレーションを、他の多くの現場でも実施するというのは、なかなか大変です。現在やっているのは、「研究室レベル」の解析なんですね。GNSSに関して詳しくない現場の担当者が気軽に使いこなせるものではない。ここまで精緻である必要はないので、もう少し簡便に、たとえば現場上空におけるGNSSによる測位精度の健全性が“ABC”で評価できるくらいのツールが実用的だと感じます。

『GPS-Studio』については、カーナビなど他分野でもそうした要望が出ています。当社としても、精緻でニッチな研究者向けを基点にしつつ、より一般向けに市場を広げていけるよう、ロードマップの書き直しも進めているんですよ。

もう一つ、GNSSによる測位精度は、周囲の環境と同時に「どのアンテナ・受信機を使うのか」によって大きな違いがあります。多種多様な受信機があるわけですが、どの強さの信号まで拾えるのかといった性能が機器によって違う。今は、使う受信機に合わせてその受信感度を設定しなければなりません。そこもやはり「研究室レベル」で、たとえば「今回はA社のこの受信機を使用する」と入力したら、自動的にその機器のパラメータが設定されるといった機能を導入してもらえると、さらに使いやすくなると思います。

ぜひ今後対応していきたいと思います。建設現場へのICT導入の重要性が指摘される中で、ドローン活用の可能性を実証した今回の成果は、とても意義深いものでした。今後の方向性、当社への要望などについて、最後にお聞かせください。

おっしゃるように、業界全体として実用化のニーズが高いイノベーションだと思います。シミュレーションは事前にさまざまな検討ができるのでとても有用ですし、説得力があります。取り組みを進める中で、電波に関する優れたソフトウェアを多数お持ちで、その用途や使い方に関する知識の蓄積も並大抵ではないことを再認識しました。今後もKKEとの共同研究などを模索していけたらいいですね。

 

取材日:2018年2月

株式会社竹中工務店について
設立:1937年
本社所在地:大阪市中央区
ホームページ:https://www.takenaka.co.jp/

この事例に関するお問い合わせ

情報通信営業部
TEL:03-5342-1121
E-mail:telcom@kke.co.jp
Web:https://network2.kke.co.jp/

※記載されている会社名、製品名などの固有名詞は、各社の商標又は登録商標です。
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