導入事例

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マーケティングコンサルティング導入事例
株式会社伊東屋 様

「顧客購買行動分析にそってレイアウト変更を行ったところ、平均購入点数・客単価共にアップしました」
株式会社伊東屋 販売戦略本部マーケティング部システム管理室
マネージャー 吉村 恒人氏
根強いファンを持つ文房具専門店「伊東屋」では、2009年単位面積あたりの売上アップを目的に「店内レイアウトコンサルティング」を受け、レイアウト変更を行った。その結果、平均購入点数4.0%、客単価3.4%の増加があった。同社 販売戦略本部マーケティング部システム管理室マネージャー 吉村恒人氏にプロジェクト内容と効果について伺った。

1904年和漢洋文房具店として銀座で創業

伊東屋さんについて教えてください

伊東屋銀座本店

赤いクリップがシンボル 伊東屋銀座本店

伊東屋は、1904年(明治37年)6月、銀座3丁目に『和漢洋文房具・STATIONERY』の看板を掲げて誕生しました。2月に始まった日露戦争の戦果で沸き返り、西欧文化が一斉に流れ込む、そのような時代の創業でした。同年12月には三越呉服店が設立されています。

関東大震災で本社ビルを焼失し、その後再建したビルも昭和20年の空襲で全焼と長い歴史の中では苦難もありましたが、一貫して、時代の一歩前を歩こう、文房具販売を通して文化の担い手であり続けようと努力し、銀座の街の発展とともに伊東屋も大きくなりました。昭和27年に銀座2丁目に移転し、現在に至ります。

現在の店舗は21店で、銀座本店と本店の裏通りに2011年10月オープンの K.ITOYA(高級筆記具と画材、地球儀に特化した「おとなの隠れ家」をコンセプトにした店舗)、 輸入品なども扱う総合文具店として渋谷店他7店の伊東屋、 itoya topdrawer(トップドロワー)といってオリジナル商品を中心とした小型店舗が9店、 セレクトショップやcafeとのコラボレーション店3店です。

伊東屋はここ数年間に渡って改革を進めてきました。ロゴの変更、topdrawerという小型店舗展開もその一環ですが、来年(2013年)初頭に銀座本店の建て替えに入り、2015年6月に再オープンいたします。現在の本店は来年1月末をもって近隣の仮店舗に移ります。

伊東屋はこれまで、「来店の度に必ずなんらかの発見のあるお店であること。クリエイティブな刺激を与え、快適な時間を過ごしていただける空間を提供すること」をコンセプトにしてきましたが、本店建て替えを機に若干変化していきます。期待していてください。

ここまで申し上げたように、ここ数年いろいろと試行して参りました。構造計画研究所に依頼した店内レイアウトコンサルティングもその1つです。



3店舗で「目的買い」と「ついで買い」をシミュレーションし、商品レイアウトを変更

ー 店内レイアウトコンサルティングとはどのようなものですか

お客様の商品購入には、「目的買い(計画購買)」と「ついで買い(非計画購買)」の2種類があると言われています。 1つ1つの商品がどちらの買い方をされているのか、実際のPOSデータ(レジレシート)を用いて分析し、お客様の行動をモデル化してシミュレーションしました。その結果から店舗レイアウトを変更して、売上へのインパクトを検証しました。


コンサルティングの進捗図

コンサルティングの進捗図


分析を行った店舗は、銀座本店、玉川店、青葉台店の3店舗で、用いたのは次のデータです。1と3はこのシミュレーションのために新たに収集しました。

1.防犯カメラの画像から、来店人数のカウントとお客様の動線などを収集
2.3年分(2007年~2009年)のレジデータ
3.店頭での来店者アンケート(200名)

「POSデータ分析」やアンケートから「目的買い」される商品と「ついで買い」される商品を推定し、「キーグラフ分析(※)」を用いて商品間の併買関係を把握しました。その上で「人流分析」と併せてお客様の購買行動モデルを作成します。

それらの分析から併買行動が起こる店内レイアウトを作成し、コンピュータ上に4種類の仮想店舗を作りました。前掲の購買行動モデルを仮想店舗上でシミュレーションし、効果が大きい案を採用して、実際の店舗のレイアウト変更を行いました。


キーグラフ分析による併買関係の抽出

キーグラフ分析による併買関係の抽出


※キーグラフ分析とは
東京大学大学院工学系研究科教授・大澤幸生氏が提唱する分析手法。テキスト・データを用いて、ある単語の出現頻度と共起関係を可視化する。出現頻度の多い単語だけではなく、出現頻度は少ないが、出現頻度が高い単語と一緒に出現し、文脈上重要な単語を可視化させることで、新たな仮説や知見、セグメントなどを発掘する。



課題だったこと:長年にわたって蓄積されたノウハウの定量化の遅れ

ー 当時どのような課題がおありでしたか

伊東屋には長い歴史の中で蓄積されてきたノウハウや勘とでもいうようなものがあって、これまでそれらを伝承で引き継いできました。
全国に店舗を増やしていくためには、手取り足取りの伝承には限界があり、この貴重な財産を定量化できないかと考えていました。

ベテランの社員は身体で覚えている部分が非常に多くて、「この時期はこれが売れる」「こういうタイプのお客様はこのような商品を好む」など、売り場ごとにノウハウがあります。 ベテラン社員は「お客様を一見しただけで欲している商品がわかる」とも言うのですが、それは、その社員が店頭に立って掴み取ってきたもので、言わば定性的なデータです。先輩から後輩に継承されてきた面と、自ら現場で掴み取らなければならない面がありました。

「こうした方が売上が良くなる」「こうすることによってお客さんは喜んでくださる」など定性的なノウハウを定量的データにできないかということが課題でした。



課題だったこと:「モノが売れなくなった」ことの分析と具体的対策

売上の面ではいかがでしょうか

ここ数年の売上はなだらかな下降傾向にあります。しかしその原因の特定ができていませんでした。 ここ数年は、リーマンショックや中国人観光客の影響など、売上の変動要因になる出来事がありました。売上が減少しているのはリーマンショックの影響だと言ってしまえば簡単なのでしょうが、ネットショップでモノを買うようになったからなのか、それとも他に原因があるのかなど、要素の確定は難しく、掴みきれてはいません。ただ、落ちるときは本当にストーンと落ちるんですよね。

また、売上の変動はロケーションによっても違い、2011年の東日本大震災の時は、山手線の内側の店舗は売上が落ちましたが、郊外店は逆に上がったんです。しばらくの間は家から離れたところに出かけなくなったんですね。それは短期の変動要因かもしれませんが、そういった傾向はありました。

影響を受けやすいのはどういった商品ですか

乱高下するのは万年筆のような高くて趣味性のあるものです。2~3割落ちて、また回復します。 それ以外の事務用品はなだらかに落ちていました。

ただ全般的なくだり坂の中でも、売上が伸びているカテゴリーがあるんです。伊東屋では商品を約20にカテゴリー分けしていますが、その中の2割のカテゴリーでプラス傾向を示しているのは売上データでわかっています。

課題だったのは、売上が良い商品がわかっても、それをどう使って打開策につなげればいいのか。それがわかっていませんでした。



シミュレーションは「経験と勘」の裏づけとなり、今後の展開のヒントをもたらした

「数字の裏づけは自信になりました」

コンサルティングを受けてわかったことはありますか

最大の成果は、シミュレーションによって、これまでの伝承や勘での運営が間違っていなかったと裏づけられたことです。
市場環境が変わっていく中で、このままのやり方を続けていていいのだろうかという不安を抱いていました。

社内会議などでも、"人気がある"とか、"よく売れる"というように感覚的な言葉で表現することが多く、併買関係についても「これとこれを一緒に買う人が多い」など傾向的な把握は行っていました。今回のシミュレーションは、社員が感覚的に把握していたことの定量的な裏づけになりました。

と言いますと?

これまでJANコードをベースにした単品ごとの売上額や商品の購入層などのデータはありましたが、POSデータの詳細な分析はしていませんでした。これを買った人はこの商品も一緒に買っているなど、併買傾向を分析したのは今回が初めてでした。

一例ですが、こちらで注目していなかった売れ方、油性ボールペンとキャラクターステッカーの併買関係などがあることがわかり、商品を見る視点が変わりました。リニューアル時の商品レイアウトの参考にしています。また、店舗ごとの売上内容の違いもはっきりわかりました。



店内レイアウトの変更で、「平均購入点数」「客単価」が共に増加

レイアウト変更の結果、売上の変化はありましたか

下図のマルチ・エージェント・シミュレーションを参考にレイアウト変更を行った結果、前年同月比で、1人あたり平均購入点数で4.0%、客単価では3.4%増加しました。


マルチエージェント・シミュレーション

マルチエージェント・シミュレーション

実はこのレイアウト変更では、逆に売上が落ちたものもありました。それはシールなんですが、ついで買いされるモノのTOPだったことがわかりました。玉川店のお客様は女性が7割以上で、女性が必ず買う商品と言ってもいいくらいです。

ついで買いされるものは置く場所が変わるだけでそんなに売れ行きが違うんですね

まとめて置いた方がいいのか、散らして置いた方がいいのか。 リニューアルの時に目立たない場所に置いてしまったらシールの売上がガタンと落ちました。 そのときに、これは女性のお客様を繋ぎとめるキーポイントで、引っ込めるのではなく見えるところにおいて置くべき商品だったという反省が出ました。

単品のデータとはそういうものではないでしょうか。「どこどこのメーカーのボールペンがこれだけ売れてます」「では次は もっとあちこちに置いてみよう」とか「面積を倍にしよう」とか、これまではそういう見方をしていました。このシミュレーションでは、そういう見方をせず、「これを買う人はあれも買うよ」という併買関係に注目したことが大きな収穫でした。



今後の期待

構造計画研究所のコンサルティングを受けてから2年が経ちますが、その後の変化があればお聞かせください

このようなシミュレーションは継続して行うことで、精度の高いデータが取得でき、そのデータから見えてくるものも多いと思います。実は自社で似たようなことができないかとやってみましたが、分析の対象となる情報が多すぎて、自社内で行うには負荷が高く、かなり大変でした。

構造計画研究所のように客観的な視点で、課題を整理・分析し、シミュレーションを行い、意思決定を支援してくれる機関に依頼することが成果を出す近道です。そして、社内にも分析を受け進言する人間がいるべきで、そういう人材を育てることがコンサルティング結果を社内に活かすために大切だと考えています。

コンサルティング時の考え方のプロセスは非常に参考にしています。購入される商品の関連性やレイアウトの影響など、解析の中から学んだものがたくさんあります。

これまでは、なにかを実施するときの根拠は熟練者の勘、または売上か利益率しかありませんでした。今後はこれまで以上に戦略的な売り場レイアウトや予算が組めるようになっていくと思っています。継続して行うことでもっと見えてくることがあると思いますので、今後も構造計画研究所には相談に乗っていただきたいと思います。



取材日:2012年10月

株式会社伊東屋について
設立 1904年6月
本社所在地 東京都中央区銀座
ホームページ http://www.ito-ya.co.jp

この事例に関するお問い合わせ

社会デザイン・マーケティング部
TEL:03-5342-1025

※記載されている会社名、製品名などの固有名詞は、各社の商標又は登録商標です。
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