産学連携の取り組み

情報断絶のない安全・安心な社会を目指して

構造計画研究所は、東北大学との共同研究により通信インフラが使えない時の情報収集・情報発信ソリューション「スマホdeリレー®」を開発しました。本記事では東北大学の西山大樹教授に「スマホdeリレー®」誕生の背景や当社に対する期待を伺いました。また、当社西浦に社会実装に向けた取り組みや今後の展望を語ってもらいました。

西山 大樹 氏
西山 大樹 氏

2008 年東北大学大学院情報科学研究科博士課程短縮修了。その後、同研究科助教、准教授を経て、2019年より同大学大学院工学研究科教授。米国電気電子学会アジア太平洋優秀若手研究者賞、第29回独創性を拓く先端技術大賞特別賞、平成 30 年度科学技術分野の文部科学大臣表彰科学技術賞など受賞多数。

スマホをつなげてバケツリレー方式で情報を伝達

「スマホdeリレー®」誕生の背景

「スマホdeリレー®」の開発に向けた大きな分岐点となったのは、2011年3月11日に起きた東日本大震災です。それ以前から私は、災害時を想定した携帯電話同士のアドホック通信の研究に取り組んでいましたが、東日本大震災を経験したことにより、真剣に社会での活用を考えるようになりました。

ただし、純粋に理論として研究していた技術を実用化するには、大きな壁を乗り越えなくてはなりませんでした。当時、スマートフォンでアドホック通信を実現するにはスマートフォンOSを改造する必要がありました。そこでまずは改造を行った第一世代のプロトタイプをつくり、携帯電話同士の通信を実現しました。さらに、OSの改造が必要となると一般社会に広まらないため、携帯電話に搭載された標準機能だけで携帯電話同士の通信ができる第二世代のプロトタイプを考案・開発しました。
 ちょうどその頃、「スマホdeリレー®」の誕生を後押しした一つの出会いがありました。南海トラフ地震よる津波災害を課題とする高知市の担当者が、「津波と地盤沈下による長期浸水が現実化した際に、通信途絶状態でもコミュニケーションが取れる仕組み」として私たちの研究に強く興味を示してくださったのです。私は、第二世代の技術で基本的には高知市のニーズに応えられると考えましたが、「実際の災害時に生命に関わる状況でも使えるシステムとして仕上げるには、大学の力だけでは不可能」と感じました。そこで、当初から「スマホdeリレー®」の研究に協力してもらっていた構造計画研究所に相談しました。

「高知市津波SOSアプリ」

システムのさらなる進化へ

「スマホdeリレー®」は2019年に「高知市津波SOSアプリ」という形で実用展開され、私の手を離れています。現在、私は「スマホdeリレー®」のベースとなっているアドホック通信の技術をさらに進化させるための理論研究に取り組んでいます。アドホック通信は、いうなればバケツリレーですから、データ伝送に関する信頼性の問題を抱えています。それにもかかわらず、多くの自治体から関心が寄せられている現状は、自然災害のリスクが差し迫っていることの現れです。私は、携帯電話同士のアドホック通信の信頼性をもっと高めるために、自動車やドローンなどと連携できるのではないかと考えています。その他、電波のリソースを有効活用するための技術開発も進めています。利用する周波数をうまく切り替えて使うことができれば、「スマホdeリレー®」を超密集環境下の避難所内や、被災地を動き回って活動する救援チームの皆さんの活動連携にも役立てることができると考えています。

構造計画研究所への期待

 構造計画研究所との共同研究を振り返って感じるのは、「研究者と技術者のキャッチボールがうまくいった」ということです。私たちからの「こんなことができないか」という投げかけに対して、「できる、できない」という回答や実現方法の提案を的確にもらうことができました。構造計画研究所の皆さんは企業に所属する技術者ですが、大学の研究者のマインドやニーズを深く理解して、コミュニケーションをとってくれました。そのおかげで、開発の各段階において、計画した以上の機能を達成しながら研究開発を進めていくことができました。
 私たち研究者は理論研究が好きで生業としているわけですが、自分の研究成果が世の中で活用されていくことにも大きな喜びを感じます。構造計画研究所にはいろいろなフィールドの研究者たちとその技術が活かされる社会、利用する人たちをうまくつなげていただくことを期待しています。

「スマホdeリレー®」の社会実装に向けた当社の取り組み

西浦 升人
西浦 升人

京都工芸繊維大学大学院工芸科学研究科修士課程修了後、2001年4月に当社入社。主に通信ネットワーク研究分野のプロトタイプ開発業務やシミュレーション解析業務に従事。途中、国際電気通信基礎技術研究所(出向)でのコグニティブ無線通信技術の研究業務などを経て、2015年より「スマホdeリレー®」事業の立ち上げに着手。現在その社会実装推進を精力的に遂行中。

「スマホdeリレー®」と「みちびき」の通信回線の相互補完関係

社会実装への取り組み

「スマホdeリレー®」の商用化には、「当社が掲げる“大学、研究機関と実業界のブリッジ”を体現したい」という強い使命感を持って取り組んでいます。西山先生が蓄積していらしたスマホによるアドホック通信についての知見を社会実装するためには、技術的なブレークスルーだけでなく、いくつかの壁をクリアしなくてはなりませんでした。そのひとつが、UI(ユーザーインタフェース)です。「スマホdeリレー®」のユーザーは、あらゆる世代にわたりますからスマートフォンに慣れていない方々でも使いやすいUIが求められます。当社では、ユニバーサルデザインを考慮したUI、「あんぴッピ®」を開発してサービスの使いやすさを追求しました。その他、高知市以外のシーンでも「スマホdeリレー®」を皆さんに広く使っていただくためのマーケティング的な活動も求められました。幸いにも公共機関とのつながりが深い社内の専門チームとの連携により、内閣府の運用する準天頂衛星システム「みちびき」の安否確認サービス(Q‐ANPI)と「スマホdeリレー®」の連携機会を創出することができました。これにより現在、全国30以上の自治体・民間団体で数年後の本格導入を目指した実証実験が開始されるに至っています。

今後に向けた展望

「スマホdeリレー®」は、必要とされる機会が少ないシステムでありながら、必要とされる時には苛烈な状況で利用されるという宿命にあり、極めて高い信頼性が要求されます。その信頼性を確保するために「スマホdeリレー®」自体の高度化とともに、いろいろな技術、システムとの連携を進めていこうとしています。既に実現している準天頂衛星システムとの連携に続き、同じく災害に強いテレビ放送波との連携も視野に入れています。また現在は、災害時の情報流通を支える通信インフラとして推進していますが、将来は日常生活を支える社会インフラの一翼も担える存在へと育てていきたいと考えています。

これまでは、西山先生の研究成果の社会実装を当社が推進するという関係でしたが、現在は逆に「当社の事業推進を西山先生に学術的側面から支援いただく」という関係性も生まれ始めています。情報断絶のない安全・安心な社会の構築に向けて、今後も大学・研究機関と連携しながら、「スマホdeリレー®」の社会実装に尽力してまいります。

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