オペレーションズ・リサーチ手法による最適化システム構築事例
日本郵船株式会社様

日本郵船株式会社

インタビューコメント:
NYK Group South Asia Pte Ltd Global Liner Management Division General Manager 岩井泰樹氏(当時)、Senior Manager 道田賢一氏

「数理学・統計学的モデルを取り入れた最適化システムは、世界中のコンテナの輸送計画を10週間先まで予測。100億円近い収益改善が見込まれています」

世界中の拠点にて海上運送業を中心とする総合物流事業を展開する日本郵船では、国際競争力を高めるために全社規模の業務改善プロジェクトに取り組んでいる。そのうちの1つ、コンテナ輸送の最適化を行う「EAGLEプロジェクト」にて、同社は構造計画研究所とともにオペレーションズ・リサーチの手法を用いたシステム構築・導入を行った。
もくじ
  1. 1. EAGLEプロジェクトについて ~世界中を駆け回る75万本のコンテナを最適化する~
  2. 2. 不確実な外部環境の変動にも応えられる最適化システムの構築
  3. 3. 個人・地域ごとの部分最適から、グローバル視点の収益改善へ
  4. 4. 100億円が見込まれる改善効果、そして今まで踏み込めなかった最適化の領域へ

EAGLEプロジェクトについて ~世界中を駆け回る75万本のコンテナを最適化する~

新造大型船の大量竣工や燃料油価格の高騰、 2008年の金融危機をはじめとした市況の乱降下などを背景に、定期船業界は幾多の厳しい状況に晒されてきました。国際的な海上輸送を中心とした総合物流事業を展開する日本郵船では、過酷なグローバル競争の中での競争力を高めるため、定期船事業の柱となる「船・人(組織)・コンテナ」それぞれに対して合理化を図るプロジェクトを進めてきました。ここ数年間で船・人(組織)においてアライアンス拡大による世界最大級の航路ネットワークづくりや航路再編、航路最適化による合理化が実現していく中、最後に残るコンテナでの取組みが、需要予測を基に貨物であるコンテナの運用最適化を目指す【EAGLEプロジェクト】です。
EAGLEプロジェクトはコンテナのイールドマネジメント(※1)により、コンテナ1本1本の採算性を追求する取り組みです。現在、日本郵船が有するコンテナは約75万TEU(1TEU:20フィートコンテナ1個)、年間の運用回数は約350万TEUにも上り、その1本1本ごとのわずかな採算向上が積み重なることで膨大な収支改善につながる可能性を秘めています。
日本郵船における定期船事業の課題として、世界中に点在する輸出営業、輸入営業、コスト管理など各業務部門間でサイロ化(※2)し、それぞれ自部門視点での最適を追いかける傾向にある一方で、それぞれの事業部の部分最適が積み重なっても、全体最適にはつながっていないことがあげられました。この課題を打破するために、他のプロジェクト同様、EAGLEプロジェクトチームは、様々な部署のメンバーから構成されました。また、プロジェクトに外部の意見を取り入れるために、以前から様々なプロジェクトで協力していた構造計画研究所がオペレーションズ・リサーチ(※3)技術のエキスパートとして参画しました。
「外部環境(市況変動)をコントロールすることは根本的に不可能です。それよりも変動の影響を最小化するために、自分たちがコントロールして改善できることを事業部として極限まで追求する、というのがEAGLEプロジェクトです。本プロジェクトの目的は非常にシンプルで、『75万本(20フィートコンテナ換算)のコンテナを、いかに正しいロジックで最も効率的に使うか』ということです。そのためには、部門間のサイロ化を取り除き、現場の社員一人ひとりが全社視点で最適な選択を取る意識改革も必要です。(NYKグループ・サウス・アジア 岩井泰樹ゼネラルマネージャー、当時)」

※1 イールドマネージメント:
需要予測を基に、最適なタイミング・価格で商品を販売し、採算性を向上させる管理手法。ホテルや運輸業界など、商品となるものの供給量が決まっている場合に用いられることが多い。
※2 サイロ化:
組織の業務プロセスやシステムなどが、他部門との連携を持たずに自己完結して孤立してしまうこと
※3 オペレーションズ・リサーチ:
数学的・統計的モデル、シミュレーションなどを用いて複雑な現実の問題に対し、最適解を求める問題解決学のこと。



不確実な外部環境の変動にも応えられる最適化システムの構築

EAGLEプロジェクトは複数のタスクフォースに分けられ、構造計画研究所はそのうちの1つ、コンテナ輸送計画の最適化とそれに伴う全社共通システムの開発を行いました。
常に変動する貨物需要に応じて世界中を飛び交うコンテナは、どの拠点でも輸出と輸入の量が一致することはなく、各地でコンテナの余剰・不足が発生しています。この不均衡(インバランス)を解消するために多くの空コンテナを拠点間で回送しており、その維持・管理には年間約300億円もの経費が発生していました。
構造計画研究所ではオペレーションズ・リサーチの手法を用いて、日本郵船の定航系基幹システム「OSCAR」と連携するシステムを開発しました。これにより、世界各地のコンテナ輸送状況や過去の取引実績から、現状把握と将来のコンテナ需要予測を可能にしました。現在、コンテナを無駄なく回送する計画を作成するシステムを構築しています。

本システムの構築により、改善された点について、日本郵船の担当者は以下のように答えています。
「将来予測を立てる際には現状のデータ分析が必要不可欠です。しかし、現場から事細かに全てのデータを収集しようとすると、作業負荷の割に予測の効果が上がりません。構造計画研究所には統計的アルゴリズムを導入した、アジア、北米などの大まかな地域とそこに流出入するコンテナ本数のデータから、マクロに分析・予測するようなシステムを構築していただきました。数値が入力されるとシステムに組み込まれたロジックから、コンテナの需要や流出入、さらには顧客からのコンテナの返却割合も含めてコンテナの計画値を算出し、将来のストックデータに反映します。ともすると担当者ごとの勘と経験によってばらついてしまう変動予測も、構造計画研究所にロジック構築をしていただいたことにより客観的に精度よく見積もれるようになりました。今までの3週間・アジア地区のみの予測しかできずに度々不足や余剰が発生していた状況から、このシステムを利用することで、全世界各地で10週間先の予測がかなりの確度でできるようになったのです。これまでのスパンが短い予測では、経費の高い近隣の供給地から取り寄せるしかないという対策しかできなかったのですが、長いスパンでの予測ができるようになったことで、より経費の安い、外地(離れた大陸)から空コンテナを持ってくる、または数週間先の需要を見据えて、あえて空コンテナを残留しておく、といった計画が立てられます。今ではこの予測に合わせてインベントリ(在庫管理)計画が作れるようになっています。
ユーザーである日本郵船グループの社員にとって使いやすく・見やすく、全体のデータバランスが良い、非常にわかりやすいシステムになったことが大きな価値と感じています。どうしても扱うデータ数が多いのですが、レポートを難しくしてしまうと社員がついていけなくなります。現在では、全世界のインベントリ計画の作成担当者は、このレポートに出てくる数字をまず信じて、これをもとに計画を立てられるようになりました。(同社 道田賢一シニアマネージャー)」



個人・地域ごとの部分最適から、グローバル視点の収益改善へ

日本郵船株式会社

刷新した最適化システムを浸透させるために、EAGLEプロジェクトでは統括グループ(シンガポール)と北米社員からなるEAGLEチームとで連携し、各事業部のセールス担当者一人ひとりを訪ねてレポートをレビューする全米行脚を行いました。「数字を正確に出しても、現場に使ってもらわなければ意味がありません。レポートの結果によっては、個人の営業成果がグローバルレベルでは損失につながっており、受注を見直すことを示唆する場合もあります。個人の営業成績が下がることにつながる場合、当然、セールス担当者は自分のやり方を変更するのを嫌がります。しかし、私たちチームは一人ひとりにレポートを出し、顧客との関係を見ながら従来のセールス活動方針について根気よくレビューし続けました。このシステムから提示される客観的な数字を見れば現状が一目瞭然になるため、私たちプロジェクトチームも根拠を持って説得することができました。そういった意味で、このシステムは一人ひとりまで落とし込めるレベルまで作り込めたと言えます。(道田賢一シニアマネージャー)」
これにより、個人業績レベルでは一見プラスでも、全社にとってマイナスの影響になるためにこの仕事は受けない、という意思決定もできるようになったのです。
「顧客との関係上、どうしても断れないなら長く広い視点で利益が出せるように、短期的で個人的な営業利益だけでなく、『どうやったらお客さんが増やせるのか』、『どうやったら全社として利益が出せるのか』を、セールス側で考えられるようになったことが大きな成果と言えます。」



100億円が見込まれる改善効果、そして今まで踏み込めなかった最適化の領域へ

現在、EAGLEプロジェクトは世界中で運用が開始され、その削減効果は100億円近くが見込まれています。そして、全体像が俯瞰できるようになってきたことで見えてきた新たな改善点もあります。
「コンテナの移動を世界規模でみていると、おや?と思う動きがあります。私たちはsuspicious(怪しい)な動き、と呼んでいるのですが、例えばA地点からB地点に行くコンテナが、次にB地点からC地点へ輸送される。しかし、A地点から直接C地点に移動しているコンテナ群もある、というケースです。それならA地点からC地点に直接運んだ方が効率よく運用できるのではないか、という仮説が立ちます。将来的には、システム側でこのような非効率な動きを感知して、より効率的な解をユーザー側に示すようにできないか、と考えています。
これは、今までは検討する変数が多すぎて解が出せず、他社では踏み込んでいけなかった領域です。予測と最適化の複雑なモデルを解く必要があるからです。このような複雑な課題を解くためには、ロジック構築に強みを持つ構造計画研究所の様に、積極的に知見を持っている人たちと協業していく必要があります。(道田賢一シニアマネージャー)」

「構造計画研究所には本タスクフォースの仕組み作りから仮説づくりといった考え方の両面で手伝っていただきました。現場に入って一緒に試行錯誤してくれるビジネスパートナーとして感謝しています。今まで溜まってきた知見とともに、東京とシンガポールの距離を飛び越えて共に汗をかけるプロジェクトメンバーとして、今後もお付き合いできればと思っています。(岩井泰樹ゼネラルマネージャー、当時)」



取材日:2014年1月
※文中のデータは、取材当時のものに基づいています。
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日本郵船株式会社について
創立:1885年9月
本社所在地:東京都千代田区
ホームページ:http://www.nyk.com/別ウインドウが開きます ______________________________________________________________________________________________




この事例に関するお問い合わせ

社会デザイン・マーケティング部

TEL:03-5342-1025

E-Mail: sdm-mkt@kke.co.jp

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この事例で使われているソリューション
最適化手法を用いたモデル構築/分析