世界初3次元免震住宅「知粋館」プロジェクトインタビュー
日本振動技術協会(JAVIT)会長・東京大学名誉教授 藤田隆史先生

藤田隆史先生

日本振動技術協会(JAVIT)会長・東京大学名誉教授 藤田隆史先生

「世界初の3次元免震建物が完成したのは、構造計画研究所の「画期的な建物を造る」という強い意欲があってこそでした」

構造計画研究所と清水建設、カヤバシステムマシナリーの共同事業である世界初3次元免震建物の阿佐ヶ谷プロジェクト「知粋館」は藤田隆史先生の免震制振研究があってこその事業。日本振動技術協会(JAVIT)会長、東京大学名誉教授の藤田隆史先生に、阿佐ヶ谷プロジェクトの開始から完成までのお話を伺った。
もくじ

藤田先生のご紹介

― 藤田先生のご経歴を教えて下さい

当初は免震は怪しい技術だと
言われていました

1974年に東京大学生産技術研究所の助教授として任官してから振動制御技術の研究を開始しました。 最初に始めたのが免震です。

一番最初のかかわりは、1978年の宮城県沖地震で、近代都市を襲った地震としては初めてのものでした。銀行でオンラインシステムが稼動して間もない頃で、それ以前の地震ではなかったコンピュータの被害を経験しました。

この後、この規模の地震が金融機関の集中する東京で起こっては大変なことになるということで、コンピュータシステムを載せるための免震床開発がスタートしました。

その後も一般建物や原子力発電所などの免震、制振技術の開発に定年まで携わってきました。 1999年に日本振動技術協会(JAVIT)を設立し、会長を務めております。



阿佐ヶ谷プロジェクトスタートのきっかけ

― 構造計画研究所とのかかわりを教えてください

会社としての構造計画研究所とは今回の阿佐ヶ谷プロジェクトが最初ですが、それ以前に技師長の高橋さん、社長の服部さんとの出会いがありました。

高橋さんとは、20年程前にオイルダンパーの実験のお手伝いをしたのが最初で、カヤバシステムマシナリーさんの紹介で、愛宕グリーンヒルズに設置する計画だったオイルダンパーの実験でした。その後、講演の依頼などを介してのつきあいが続き、高橋さんの学位論文にも関わらせていただきました。

社長の服部さんとは、JAVITの建物生涯コストセミナーで、服部さんに扱っておられるソフトを紹介していただいたのが最初で、私が東京大学の産学連携本部長として開催したあるイベントに服部さんが参加者としてお見えになったりして、おつきあいが続いてきました。

服部社長と高橋さんとは別々に出会って、別々に個人としてつきあいが続いてきたんです。

― そうすると、阿佐ヶ谷プロジェクトはどのような経緯で始まったのでしょう

阿佐ヶ谷プロジェクトスタートのきっかけは高橋さんからのお話でした。 阿佐ヶ谷の社有地に画期的な構造の建物を造る構想があって、その企画について相談したいということでした。

その相談にのる中で、以前国家プロジェクトで携わった3次元免震の研究で開発したシステムがあって、それを一般建物に採用できないだろうかと。「それをやりましょう」と意気投合したのがそもそもの始まりです。

― わくわくするようなお話ですね。それで?

国家プロジェクトで開発した技術を民間に流用するには許可が必要ですので、国の機関に相談しました。そうしたら、国で使う為には民間での実績が必要なので国としては歓迎しますという回答をいただいて、あとは特許権者等の許可を取る必要がありました。

特許関係も了承をいただき、次に国家プロジェクトで有望なシステムの提案を行っていた清水建設さんにお声がけして加わっていただけることになり、スタートの準備が整いました。



困難だったこと~心臓部分の空気ばね製造と日本建築センター評定

― 世界初のプロジェクトを遂行される中で、困難だったことを教えてください

困難な点は2つありました。
1つは、縦揺れを低減する空気ばねの製造です。
当初のアイディアではローリングシールタイプという空気ばねの使用を前提に進めていました。ところが、採算ラインに乗る前の製造依頼ですから、引き受けてくれるメーカーがありませんでした。

プロジェクトの断念も考えたくらいでしたが、清水建設さんがせっかくのプロジェクトだからと粘ってくれ、構造計画もこのアイディアをぜひ進めたいと言って、実現の方向で模索を続けました。

今の段階で入手できる一番大きな空気ばねを採用しようということになり、アメリカのファイヤーストーン社製のものを採用しました。この変更で当初計画のローリングシールタイプ1個使用を、3個のベローズタイプ空気ばね使用に変更しています。

3次元免震装置システム(ハイパーエアサスペンション)

縦揺れを3分の1に減衰する「ベローズタイプ空気ばね」


最初の企画とは別物になりましたが、結果的にすぐにでも使える一般建物用の本格的3次元免震装置として世界初の技術になりました。

困難だったことの2つめは、日本建築センターの評定(※)でした。
当初充分だろうと考えた試験を行い、その結果を添えて評定にかけたところ、非常に多くの追加実験を要請され、最初に考えた倍くらいの量の実験を行いました。また審査にも時間がかかり、半年から長くて1年くらいが通常のところ、結果的に2年程かかりました。

世界初の技術であるだけに注目が集まることは必須であり、審査も慎重にならざるを得ないというのは理解できますが、それにしても長かったですね。 最後は、シミュレーションだけでは足りず、清水建設さんのところで、実際の装置一式を組んで実験しました。

※ 評定(性能評価)
国土交通大臣指定の性能評価機関において、建築基準法に基づき、専門家による性能評価の審査を受けること。超高層建築物や免震建築物のように高度な構造手法を用いた建築物や、新開発の材料等が対象となる。



成功の要因~構造計画研究所の粘り

ーこのプロジェクトの成功要因はなんだと思われますか

高橋さん個人だけでなく、構造計画研究所が会社として持っている「新しいことを実現するんだ」という意欲につきます。これは並大抵の意欲ではないですよね。

ローリングシールタイプの製造で躓いた段階で、この方法では無理だとなっていた可能性がありましたし、そこを乗り越えたとしても、次の日本建築センターの評定で、これほどの抵抗があるのであれば、どれだけ時間とコストがかかるか知れないと諦めていたかもしれません。

そこを乗り越えられたのは、「画期的な建物を造る」という意識が、構造計画研究所のトップから担当者にまで行き渡っていたからです。このことは、清水建設さんについても申し上げられることです。

新しいことをやりたいという意欲は、服部社長や高橋さんとのつきあいの中で感じていたことでしたが、そのチャレンジ精神を組織としても持っていることを阿佐ヶ谷プロジェクトを通じて感じました。

構造計画は新進気鋭の会社ではなく社歴のある会社です。守りに回りがちな中で、そのようなチャレンジ精神を会社として持っていることには若々しさを感じますし、そこが構造計画の一番の魅力であり、強みです。

構造計画に望みたいことは、3次元免震は、ニーズはあるので粘り強くマーケティング活動を続け、ビルだけではなく一戸建てにも広めていってほしいと思っています。 阿佐ヶ谷プロジェクトは、3次元免震技術を実用化するために立ち上げたプロジェクトです。 これが最良ではなく、まだまだ発展途上ではありますが、国家プロジェクト用に開発した技術が実用化され、改良されて完成形に近づいていくのはもう見えています。今後、構造計画の看板に3次元免震が加わることを期待しています。



今後の課題~困りもの扱いの振動をお役立ち振動に

― 藤田先生が次に考えていらっしゃることはなんですか

私が若かったら自分でやるんですが

JAVITの企画を通じて、新しい技術の発展に寄与したい。 今注目しているものが2つあります。

1つは環境振動発電といって、揺れを使っての発電です。それを主に通信用に使います。 現在でもいくつかは実用化されていますが、振動の大きいところで発電すればもっといろんなことができます。

もう1つは、バイオ・ライフサイエンス。まだ決定的なものは見えていませんが、これは可能性があります。 骨折がある振動数の振動を与えると早く治るとは言われていますが、まだその理由がよくわかってないんです。
超音波診断や胆石を破壊するものは既にありますが、超音波はもっといろんなことができるはずです。

振動はこれまで、邪魔になるので無くそうという研究がほとんどでした。 逆に、振動を役立たせようというアイディアは以前からありましたが、本格的なものは生まれていません。 ここにきて、環境振動発電や振動を利用した医療など有望な技術が出てきたので、振動技術協会での事業を通してプロモートしていきたいと考えています。


取材日:2012年12月
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日本振動技術協会(JAVIT)について
設立 1999年4月
所在地 東京都渋谷区
ホームページ http://www008.upp.so-net.ne.jp/javit/______________________________________________________________________________________________


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この事例に関するお問い合わせ

建築構造営業部 TEL:03-5342-1026

大阪支社 TEL:06-6226-1231

E-Mail: eng-kozo@kke.co.jp

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知粋館ホームページ http://chisuikan.kke.co.jp別ウインドウが開きます


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