解析コンサルティングおよび電磁界解析ソフト「XFdtd」活用事例
千葉大学大学院理学研究科 ハドロン宇宙国際研究センター 粒子線研究室 様

ハドロン宇宙国際研究センター 粒子線研究室様

千葉大学大学院理学研究科 ハドロン宇宙国際研究センター 粒子線研究室
間瀬圭一 助教
(アンテナ制作: 古河C&B株式会社様)

「南極でニュートリノを捕らえる国際プロジェクトに参画。KKEのサポートにより設計したアンテナで、世界初の観測を目指します」

宇宙から刻々と私たちのもとに降り注ぐニュートリノ。そのニュートリノの観測を行う国際プロジェクトが、今、南極で進行中なのをご存じだろうか。そこに我が国から唯一参加する千葉大学大学院理学研究科の間瀬圭一助教が目指すのは、「最高エネルギー宇宙線由来のニュートリノ」を見つけること。先頃その実験に欠かせないアンテナを開発し、2016年の冬(南極では夏)に南極で試験する運びとなっている。はたしてどんな研究なのか、人類に何をもたらすのか。お話を伺った。

もくじ
  1. 1. 高エネルギーニュートリノを捕まえ、宇宙の謎にせまる
  2. 2. 南極で始まったプロジェクト「IceCubeコラボレーション」
  3. 3. まだまだ“氷”の大きさが足りない!次世代設備「ARA」の建設
  4. 4. アンテナ設置コストを10分の1にするためにアンテナを小型化したい ~米国の研究者も利用している「XFdtd」を利用~
  5. 5. 宇宙の進化の研究進展に期待

高エネルギーニュートリノを捕まえ、宇宙の謎にせまる

― 「ニュートリノ」と聞くと、ノーベル物理学賞が思い浮かびます。

間瀬圭一氏

2015年、東大の梶田隆章先生がスーパーカミオカンデを使った「ニュートリノ振動実験」で、ノーベル賞を受賞されました。前身のカミオカンデでは、小柴昌俊先生が宇宙から飛来したニュートリノを観測することに初めて成功し、やはりノーベル賞を受賞されています。私たちも、宇宙からやってくるニュートリノを捕らえたいと考えています。私たちが狙っているのは、ニュートリノの中でも、従来の施設では観測が困難な「最高エネルギー宇宙線由来のニュートリノ」です。 ブラックホールのような高エネルギー現象によって発生するニュートリノの観測は容易ではありません。ニュートリノは電荷を帯びていない中性の粒子のため、他の物質とほとんど反応せず、人体はおろか地球をも突き抜けてしまいます。 一方で、この「他の物質と反応しない」という性質がとても重要です。光や、電荷を持つ物質―例えば陽子―だと、発生源が遠ければ地球に到達する前に他の物質と反応して消えてしまいますし、途中に磁場がある場合も進路を曲げられるため、どこから来たのかを知ることができません。しかしニュートリノなら、何ものにも邪魔されずに、宇宙のはるか遠くからまっすぐ我々のもとに届いていてくれ、宇宙の成り立ちや起源に関する情報も運んできてくれます。



南極で始まったプロジェクト「IceCubeコラボレーション」

― そのニュートリノ観測の国際プロジェクトが南極で始まり、そこに粒子線研究室も参加されています。取り組みの概要を教えてください。

10年以上前にスタートしたプロジェクトは「IceCubeコラボレーション」と命名され、現在12カ国、48機関、計300名ほどの科学者が参画し、それぞれが観測施設IceCube(以下、IceCube)を利用しています。観測の方法をごく簡単に言うと、南極の氷に穴を開け、高感度の光検出器などからなるデジタル光モジュールを埋め込み、それでニュートリノを検出しようというものです。

ニュートリノの直接観測は難しいのですが、ニュートリノが反応した際に出来る二次粒子は、何らかの「媒質」を通過するときに、わずかながら発光する性質があります。チェレンコフ光という、このごく微弱な光を観測しています。IceCubeでは巨大な南極の氷を媒質として利用しています。スーパーカミオカンデの媒質は純水ですが、基本的な仕組みはどちらも同じです。

― 南極の氷自体が観測装置の一部になっている、と。

そうです。IceCubeの特徴は、なんといってもそのスケールです。媒質の容積が1km3、スーパーカミオカンデの約2万倍に達します。さらに色々な研究ができるのも、IceCubeのいい点です。国際プロジェクトでは、皆が同じことを研究しているわけではありません。宇宙の暗黒物質の研究やニュートリノ自体の特性の解明など、各研究機関がそれぞれのテーマを持って集まっています。

南極点付近のパノラマ風景

▲ 基地付近のパノラマ風景

― 間瀬先生の研究テーマについて教えてください。

私は最高エネルギー宇宙線の起源を調べたいという思いがありました。宇宙からは1020eV(エレクトロンボルト)という、素粒子1個でプロテニスプレーヤーが放つサーブ約1球分の高い運動エネルギーを持った放射線が降り注いでいます。そんな粒子が、宇宙のどこかでつくられており、この宇宙線がどこでどのように生成されているのかを研究しています。



まだまだ“氷”の大きさが足りない!次世代設備「ARA」の建設

我々千葉大学のグループは、IceCubeで1015eVのニュートリノの観測に成功し、2012年の国際会議で発表しました。理論的に予言されていた高エネルギーニュートリノの実在を示したのは、世界初のことです。ノーベル賞級の成果といっていいでしょう。しかし、我々が見つけたいのは、さらにエネルギーの高い粒子です。何としても観測したいと思っています。

― 高エネルギーニュートリノの観測は、どういった点が難しいのですか?

他のニュートリノに比べ、地球に飛んでくる量が非常に少ないからです。IceCubeのサイズは1km3もあるのですが、私たちの狙う高エネルギー粒子を検出できるのは、確率的にせいぜい1年に1個です。それを確実に捕らえるというのは困難な上、観測できるまでに時間もかかります。

この制約を解決するために、5年ほど前からいくつかの研究機関で協力して進めているのが、IceCubeの次世代検出設備「ARA(Askaryan Radio Array)」の建設です。特に最高エネルギー宇宙線に興味のある研究者50名ほどが参画しています。

― IceCubeとの違いを教えてください。

IceCube用光観測モジュール埋設作業中の研究室メンバー

南極にて、IceCube用光観測モジュール
埋設作業中の研究室メンバー

位置づけとしては、IceCubeプロジェクトの高エネルギーニュートリノ研究領域に注力した、拡張実験のための施設と言えばいいでしょうか。 高エネルギーニュートリノ観測に特化して、ターゲットを確実に捕らえよう、と考えています。

ARAでは検出装置の実効容積がIceCubeの10倍になります。狙う粒子を装置で検出する確率は、10倍に高まります。また、ARAでは、光ではなくニュートリノと媒質の反応で発生する電波を捕らえます。このやり方は、多用途のIceCubeと違い、基本的に最高エネルギーのニュートリノの観測以外には使えませんが、電波には電波のよさがあります。光は氷の中で減衰し、100mで消えてしまいます。そのため、IceCubeのプロジェクトでは、100m間隔で検出器を埋める必要がありました。一方ARAでは、アスカリアン効果という電波の“干渉”を利用することで、光よりも大きな信号が得られます。また電波に対する氷の減衰長は1kmなので、検出器の設置は1km間隔でよくなりました。その分コストダウンも図れます。

これだけ巨大な設備になると、コストの問題は避けて通れません。KKEに今回解析をお願いしたアンテナの形状検討も、もともとは建設コスト削減の必要性が始まりでした。



アンテナ設置コストを10分の1にするためにアンテナを小型化したい ~米国の研究者も利用している「XFdtd」を利用~

検出器を設置するために、大量の熱湯を使って南極の氷を掘削しますが、そのコストは膨大です。IceCubeプロジェクトでは深さ2.5kmの穴を多数掘っており、穴を1本開けるのに5000万円もかかりました。ARA建設でも、この掘削コストが大きなネックになりました。 そこで浮上したのが、「開ける穴の直径を小さくする」というアイデアでした。ARAは、当初直径15cmの穴にアンテナを入れてスタートしていましたが、それを10cmにできないか、という話になりました。そうなると、必然的にアンテナも穴に合わせて細くしなければなりません。そのアンテナの最適な形などを導き出すための解析を、KKEにほぼ全面的にやっていただきました。

解析例:最適化前のVpolアンテナ形状イメージ

▲ 最適化前のアンテナ(Vpolアンテナ)形状イメージ
アンテナ直径(赤い矢印部分)を段階的に小さくしつつ、
アンテナ長、エレメント直径なども検討しながら形状を最適化した。

アンテナの性能などをきちんと理解しておかないと、実際にニュートリノを捕まえたときの挙動もわからないので、私たちは以前からアンテナ性能評価に電磁界シミュレーションソフト「XFdtd」を導入して、その結果とデータの比較などを行っていました。今回、アンテナを細くするにあたっても、私たちの手でできないことはなかったかもしれませんが、私たちは電波の専門家ではありません。どうしたものかと、詳しい人間に相談したところ、「それならKKEに相談してみたらどうか」とアドバイスされました。

プロジェクトメンバー内で穴の直径を小さくしようという方針が決まり、KKEにアンテナの小型化解析を依頼したのが、2016年1月でした。南極はその寒さのために夏場しか屋外作業ができないため、10月には出来上がった製品を現地に送りたいと思っていました。逆算すると、3月までに形状デザインが出来上がっていないと、という切迫したスケジュールだったのでお願いした部分も大きかったのですが、振り返ると、やはりその道のプロであるKKEに頼んでよかったと思っています。

解析例:最適化後のVpolアンテナ形状イメージ

▲最終的にKKEがご提案したVpolアンテナモデル
直径が6.93cmまで小型化された。

解析例:ゲイン強度の確認

▲シミュレーションにて、ゲインに大きな影響がないことを確認している。

「アンテナの小型化」といっても、単純に同じ縮尺で小さくしても、性能は保てません。そのあたりのノウハウは期待通りでした。1週間に1度進捗状況に関するレポートをいただいたので、「今どうなっているのか」を正確に知ることができましたし、疑問点があれば具体的な質問もできました。安心して任せられた、というのが率直な感想です。



宇宙の進化の研究進展に期待

― 間瀬先生のような物理学者の方が、観測装置の製作にまで深くかかわるというのは、意外でもありました。

物理学者にも、「実験屋」と「理論屋」という2つのタイプがいます。前者は実験装置を自ら考案しながら、自身のやりたい実験をやる。私はこの実験屋タイプです。研究室は自作の機械が山とあります。日本人は、どちらかというと実験の得意な人が多いように感じます。 現在、シミュレーションを重ねた3次元CADデータを基に、メーカーが新しいアンテナを製作中で、2016年秋には完成の予定です。それを私たちでキャリブレーション(感度較正)したうえで、南極に送ることになっています。今年は、私も初めて現地に行くことになり、実験が楽しみです。

▲ IceCube用Vpolアンテナ(左)と、新たに作成しているARA用アンテナ試作機(右)
アンテナは「古河C&B株式会社」が製作している。

― 南極のプロジェクトに参加しているのは、日本からは千葉大学だけです。研究に対する大学の期待も大きいのではないですか?

そうですね。実は千葉大学は「宇宙」の研究に本腰を入れていて、2012年には、大学院理学研究科の附属機関として「ハドロン宇宙国際研究センター」を開設しました。私も属するニュートリノ天文学部門と、天体活動の理論シミュレーション研究に携わるプラズマ宇宙研究部門があり、互いに連携して高エネルギー宇宙線の起源解明などに取り組んでいます。

南極での成果などを通じて、本センターの世界での存在感も徐々に高まってきたと感じています。できるだけ早く、最高エネルギー宇宙線由来のニュートリノを発見して、さらに世界をあっと言わせたいですね。1つでもこのニュートリノが見つかれば、そこからまた新たな研究の扉が開くのではないでしょうか。

― 最後に、当社への期待などがありましたらお聞かせください。

先ほど申し上げましたように、サポートに十分満足しています。初めてアンテナを扱ってみて、全体的に手間やコストのかかる領域だな、という感想も持ちましたが、今後も解析ソフトは使い続けようと思っていますし、研究の進展によってまた依頼が発生するかもしれません。そのときには今回と同じように、また完璧なフォローを期待しています。



取材日:2016年6月(一部写真撮影:2016年9月)
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ハドロン宇宙国際研究センターについて
設立:2012年01月01日
所在地:千葉市稲毛区弥生町1-33
ホームページ:http://www.icehap.chiba-u.jp/別ウインドウが開きます
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この事例に関するお問い合わせ

マーケティング本部(東京・本所新館)

TEL: 03-5342-1102

FAX: 03-5342-1103

E-Mail: xfdtd@kke.co.jp

http://network.kke.co.jp/products/xfdtd/別ウインドウが開きます


この事例で使われているソリューション
XFdtd 3次元電磁界解析ソフトウェア