Story. 04



今なお、作っては試して、に多大な労力がかかるものづくりの現場

〝ものづくり″の歴史は〝カイゼン″の歴史ともいえます。エンジニアたちはあらゆるプロセスにおいて、業務効率の改善や品質の向上を目指して、おのおのの現場で試行錯誤を重ねてきました。
近代産業の礎が築かれ約250年が経ち、類を見ない速度で新たな商品が生み出され続ける今もなお、エンジニアたちは希望する仕様の製品を作り上げるまでに、「設計、試作、検証」のサイクルを何度も繰り返さなければなりません。製品そのものが良くなる試行もあれば、水泡に帰してしまう失敗もあります。

近年では、そのサイクルの効率化を目指して、様々なメーカーが「設計」段階でシミュレーションを導入しています。コンピューター上で「設計、試作、検証」サイクルを回すCAE(Computer Aided Engineering)を活用し、開発期間の短縮やコスト削減を実現しようと工夫が続けられています。
開発の手間や手戻りにかかるコストの削減、品質の向上、そして何より、エンジニアたちがより創造的な業務に時間を割き、良い製品作りにより集中できる環境になるよう、日夜CAEは進化を続けています。

まだ再現が難しい領域のシミュレーションを、アカデミックの先端技術で可能にしたい。高度な解析の専門知識を有さない設計者でも利用できるソフトウェアとして、研究の知識を広く社会に還元したい。そんな想いをもって新たなCAEソフトウェアの開発・ビジネス化に取り組んでいるのがKKE SBD営業部のエンジニア、倉本龍です。


基本設計の段階で解析を行い、手戻りを減らす

「〝設計者が解析(シミュレーション)を行う″といっても、今は解析をするのに高度な専門知識は必要ありません。当社で扱っているCAEソフトウェアは、世界でトップクラスのシェアを誇る3次元CADソフトウェア『SOLIDWORKS』に追加(アドオン)利用でき、解析経験のない方でも簡単にシミュレーションできるため、多くの設計現場で活用されています。」(倉本)

建物の構造設計の世界で早くからコンピューターを取り入れてきたKKEでは、20年ほど前から製造業における製品の設計者向けに様々なCAEソフトウェアを提供してきました。設計者が基本設計の段階でシミュレーションを取り入れれば、早期に不具合を把握して手戻りを減らすことができると考えたからです。


さらに広がり続けるシミュレーションの対象領域

倉本は、入社8か月目から、共同研究者として足しげく東京大学大学院工学系研究科レジリエンス工学研究センターの酒井研究室に通っています。
粉体と混相流*に関わる分野のシミュレーションで数多くの研究実績を残している酒井研究室の研究成果を、世の設計者たちに使ってもらえるようなCAEソフトウェアにできないか。その想いを形にすべく、2017年春に向けて倉本は、「固体、気体、液体」の三相連成シミュレーションに対応した解析ソフトウェア「iGRAF」を、日本でリリースしようと開発を続けています。

*混相流: 固体・気体・液体など、複数の物質の相が混ざりあった流れ。固気二相流・固液二相流・気液二相流・固気液三相流などが挙げられる。

▲焼却炉、乾燥装置などで利用されている流動層の「iGRAF」解析事例:
粉体中に空気を上向きに流入させた際、粉体がどのように動くかを表している。

「iGRAF」は、酒井研究室で培われた最新の研究成果に基づき、KKEが独自に開発したソフトウェアです。今まで世界のトップレベルの研究者でもほとんど再現できなかった、「固体(粉体)、気体、液体」の三相連成シミュレーションを精度良く解析することを可能にしました。

「三相連成シミュレーションは、コンピューターの処理能力や物理モデルの限界によって、超高性能なコンピューターを使わなければ『計算不可能』と考えられていた領域でした。酒井研究室の豊富かつ洗練された物理モデルを採用することで、それが1台のパソコンで計算できる。これが「iGRAF」の大きな強みです。粉体と液体の"撹拌"に対する検討が欠かせない食品・医薬品メーカーや、鉄鋼や建築材料メーカーでのニーズは非常に高いと考えています。」(倉本)


アカデミックの先端技術をビジネス化し、社会に還元する

「将来的には海外へのマーケティングも積極的に仕掛けたいと考えています。『iGRAF』を世界中のものづくりの現場に浸透させたいですね。」(倉本)

まだ世に出ていない大学や研究機関の先端技術を〝ビジネス″や〝製品″として社会に出すためには、いくつもの課題があります。世に広めるためのマーケティングの知見。ユーザーから求められる製品の見た目・使いやすさ(インターフェース)。サービスとして円滑に運用するためのノウハウ。有用な知識を"ビジネス"として成り立たせるために、倉本を始めとしたKKEのメンバーは今まで設計者と接して培ってきた経験値を糧に、それらの課題を一つ一つ解決していくことで、最先端の技術を世に送り出そうとしています。

「プロジェクト開始当時、すでに研究者らが利用している三相連成シミュレーターはありましたが、それらはあくまで高度な解析知識を持つ専門家向けのもので、一般の設計者にとっては、敷居が高いものでした。『iGRAF』を開発する際に私たちがこだわったのは、〝いかにシンプルでわかりやすいインターフェースを実現できるか″という点です。どんなに先進的な製品・サービスでも、現場が使いこなせなければ意味がありません。これまで当社がものづくりの現場と向き合って蓄積してきた知見をもとに、解析の専門家ではない設計者でも最先端の解析を簡単に利用できるインターフェースを作り上げました。また、アフターフォローにも力を入れ、サポート体制の充実を図ったりFAQを整備したりと、設計者が円滑に活用できるような環境を整えています。」(倉本)

いかに現場のエンジニアが使いやすいか。徹底的な設計者目線を貫く倉本の姿勢は、私たちが大切に思うもの―KKE WAY―の追求の表れです。

「世界で利用されているCAEソフトウェアのほとんどは欧米の企業によって開発されたもので、日本製のものは圧倒的に少ないのが現状です。日本発のシミュレーションソフトウェアで世界のものづくりを変えるのが、私の野望です」(倉本)

日本発のシミュレーションソフトで世界のものづくりを変える。
倉本の挑戦はまだ始まったばかりです。