Story. 02



シミュレーションの強みを生かす

旅客機が操縦機能を失うようなシリアスな状況も、シミュレーションでなら難なく再現できます。現実に起きた事故に学びつつ、様々な事態を想定しながら新たに加えられた訓練メニューをシミュレータで経験していたことで、実際に起きた事故でも被害を小さくできた事例も航空業界にはあるようです。

加えて、シミュレーションやシミュレータが強みとするのは、まだ起きていない事故や危機までもリアルに体験させてくれることです。もちろんこれは飛行機の操縦技術に限ったことではありません。事故や災害など特殊な状況を想定したシミュレータを走らせることで、危険が発生するメカニズムが明確になり、どんな対策がどれほどの効果を上げるのかも明らかになります。

ハードウェアとソフトウェアの両面から「まだ起きていない問題」に対する具体策を検討し、それがどれほど効果的かを評価することができる......。危機に備えるシミュレーションの価値はここにあります。


二つのシミュレーション技術を融合させる

3.11を経た全国の自治体の防災担当者にとって、もはや「避難誘導計画」は机上の空論ではあり得ません。内閣府中央防災会議では、最も被害の大きいケースにおいて「マグニチュード9クラスの地震と30メートル超の津波」という南海トラフ巨大地震モデルを提示しています。防波堤の新設や強化といったハードウェア面での対策に加え、それらの効果を最大限に引き出す運用方法――すなわち避難計画などのソフトウェア面での対策――が、自治体に求められています。

KKEでは、津波の伝播や遡上を可視化するシミュレータと、住民の避難行動シミュレータを組み合わせることで、対象地域が抱えるさまざまな制約・条件を検討しながら避難計画の策定を支援する、自治体向けのコンサルティングを行なっています。

「どんな地震のシナリオを想定するかによって津波の挙動は変わってきます。人口分布や年齢構成や発災の時間帯により避難行動をとるまでの時間、歩行の速度、避難経路も変わってきます。避難に使う道路や、避難所となる高い建物の配置など、地域ごとに与件も異なります。そうした細かな地域の事情を反映した計画の策定に、シミュレータが大きな力を発揮します」(北上靖大・創造工学部)

自然現象を記述する物理シミュレーションと、自律的な個人の集合として集団を記述するマルチエージェント・シミュレーション。KKEならではの強みを持つこれらのシミュレーションと可視化技術を組み合わせたシステムが、この支援コンサルティングの中核にあります。 


シミュレータそのものではなく、そこから得られた対策に価値がある

「自治体の防災担当者にとってこのシステムが、パイロットにとっての操縦シミュレータや乗務員の訓練メニューのように、多面的な対策立案をサポートする役割を果たさなければなりません」と北上は言います。

「3.11後の聞き取り調査では、揺れを感じてから避難を始めるまでの人間の行動パターンは4つに分類できるという調査結果も出ていました。地震のすぐ後に避難する"直後避難"、自宅に戻ったり子供を迎えに行くなど、用事を済ましてから避難行動を取る"用事後避難"、用事の途中に津波が来て逃げる"切迫避難"、そして、はじめから高い場所などに居て避難していないの4パターンです。」

こうした人間の行動特性のモデル化に加え、実際に避難路を歩き、建物の倒壊や落橋など避難経路上にボトルネックとなり得る箇所があるかどうかを詳しく調査した結果も盛り込んで、シミュレーションモデルを検討します。ただ、そうしたシミュレーション結果そのものに価値があるわけではありません。

「自治体の担当者とともにシミュレーション結果を分析し、対策を提供するところまでやりとげて初めて、支援コンサルティングと呼べるのだと思っています。シミュレータという"道具"を使って得られた合理的な判断が、避難計画の立案に生かされ、現実のハードの整備だったり、避難方法についての地域住民との対話、防災に対応した街づくりのグランドデザインに生かされる。それがこの仕事におけるゴールだと思っています」(北上)

地震や津波を止めることはできなくとも、被害を減らすことはできる。そのためにKKEも、知恵と汗を絞っています。