Story. 01



電気通信を所管する国連の一機関「ITU」

道路が右側通行か左側通行かは国によって違いますが、「どちらでもよい」という国はありません。あらかじめどちらかに決めておかないと、道路を走るのは事故に遭うのと同じことになってしまうでしょう。

電波利用において、使用する周波数や出力に厳格なルールが定められているのも同様の理由からです。そして各国が依拠するスタンダードを決めているのがITU、国際電気通信連合です。

ITUはスイスのジュネーブに本拠を置く国連の一機関で、無線通信に関しては複数のスタディグループからなるITU−Rという場で各国の代表団による協議が行われ、決定事項は「ITU勧告」などの形で各国に周知されます。


「パートタイムの国家公務員」として代表団に参加

KKEの吉敷由起子(社会インフラシステム部)は、ITU−Rに参加する日本代表団の一員として毎年のようにジュネーブに通っています。

「いってみればパートタイムの国家公務員でしょうか。これまで3回参加しましたから、総務大臣名の委嘱状も自宅に3枚あります」

吉敷は代表団としての仕事をこう解説します。

「私が参加するスタディグループは、電波伝搬の基礎的なデータや計算式に関するスタンダートを決める場です。ここで決められた"勧告文書"は、電波利用の教科書となり、各国の政策担当者や無線技術者の虎の巻となっていきます。互いの国益を戦わせるというよりは、もっとアカデミックでなごやかな雰囲気の中、会議が進められます。"屋外への電波漏洩を記述するための標準的な計算式"を話し合う会議(ドラフティンググループ会議)で、チェアマンを務めたこともあります。ニッチとはいえ世界標準を決めるという重い責任のかかる場でしたが、うまく議論をコントロールできたと思います」 


より良い未来のための環境整備

代表団には、官僚に加え独立行政法人の研究者や大学教授などが参加しています。民間の通信事業者も加わりますが、そのどれにもあてはまらない立場でKKEは、この分野における専門知識とノウハウを買われて総務省から委託を受け、チームに加わっています。

「特定の通信会社に属していないことで、フラットな立場から意見を言えるというメリットもあります。もちろん日本代表の名に恥じない学識が求められますから、準備期間もジュネーブ滞在中も、緊張感は続きます」

吉敷が扱うのはミリ波(30GHz~)やサブミリ波(300GHz~)など、非常に高い周波数帯です。テラヘルツ波などとも呼ばれ、赤外線と境界を接する「最後の電波資源」とも呼ばれる領域です。

「自動車の衝突防止レーダーや、秘匿された武器・爆発物の検知など、現状は通信とは異なる分野での利用も進んでいます。でも携帯電話やWi-Fiが使う領域の混雑ぶりを見れば、この周波数帯が通信で使われるようになるのは必然でしょう。干渉を避け、より多くの人がハッピーに利用できるような準備を、今からやっておく必要があるんです」